東京の子

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レビュー : 31
著者 :
しずくさん    読み終わった 

舞台は2023年のオリンピック後の東京。パルクール・パフォーマーを引退した舟津怜は、「仮部諫牟(かりべいさむ)」の戸籍を買い、新たな人生を歩んでいた。仕事は失踪した外国人労働者を捜索するというもの。「東京デュアル」内にあるベトナム料理店のスタッフのファム・チ=リンが失踪し、仮部は彼女の捜索を依頼される。ところが見つけたファムに、仮部は「デュアル」
に通う恋人を救って欲しいと頼まれた。
「東京デュアル」とは、国家戦略特区となった東京オリンピック跡地に人材開発を目的として設立された大学校高みたいなもの。ファムは、デュアルは表向きは理想の大学というが、実は学生を人身売買しているのだという

描かれた世界は4年後でとても身近に感じられた。
ファムが人身売買と怖れる東京デュアルの奨学金制度。雇用確保や労働条件維持など学生にとってもメリットが有るように見える。しかし、卒業後に奨学金をもらった企業で働くという条件は、将来を縛られてしまうのではないだろうかと危惧するのだ。
読んでいて、45年前に似た様な制度があったのを思い出した。昔、勤務していた高等看護学院に”ひも付き”と呼ばれている奨学金制度があったのだ。看護婦(当時は看護師とは呼ばれていなかった)の人手不足を解消するために、都市部の大病院が奨学金を学生に無料で貸し出し、その替わりに、就職はその病院で働かなければならないというものだった。地方の貧しい家庭にとって、有難い制度だっただろう。しかし、賢い学生の何人かは『ひも付き』と自身を揶揄していた。私がその制度にアンビバレントな思いを抱いたのは、管理する教務側の立場だっただからか。
即、色よい返事をするデュアルの学長・三橋の物わかり良さは不気味。両親にネグレクトされた仮部を取り巻く大人たちの、大熊大悟やダン・ホイの人物造形も面白い。利害関係のみで繋がっているようにも見えない。
仮部が、もう一度自分の名前・船津怜を名乗って生きていこうとするラストが明るい。まるでパルクールの跳躍を観たようだった。

レビュー投稿日
2019年5月24日
読了日
2019年5月23日
本棚登録日
2019年5月23日
5
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