黒革の手帖(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1983年1月27日発売)
3.66
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本棚登録 : 1946
感想 : 190

元子はどこまで黒い世を渡っていくのだろう。
血も涙もなく、計算高い人間ならば、裏の手を使って人を脅してでも成功をつかめるものなのだろうか。

現状に決して満足をしない彼女は、次々に利用する標的を探していきます。
なにかもう取り付かれたよう。
家族を持たず、守るべきものは一切無い彼女をそこまで動かすものは何なのか。
この作品では、そういったセンチメンタルな情緒は皆無であるため、彼女の本当の思惑についてはわかりません。
おそらく著者は、ヒロインの動機付けには興味が無く、とにかく計算づくでダークな世間を動かそうとする、欲深い一人の女性を描きたかったのでしょう。

それでもやはり、彼女の暗躍に限界はありました。
好意を抱いた男性の登場で、ようやく彼女の人間らしく、女らしい側面が引きだされるかと思いましたが、愛らしさや幸せではなく嫉妬や焦りといった負の感情が書き込まれています。
とことん、作品に明るさや安定を入れないことにしているようです。

結局その男にも裏切られ、脅すつもりの男に脅され、八方塞となった彼女。
女同士の罵り合いのひどさには目を覆いたくなりました。
「パン助」なんて侮蔑語に、時代を感じます。

一番ぞ~っとしたシーンで、突然のように物語は終了。
これで終わり?と、納得できずに、巻末の新刊宣伝ページまでくくって確認しました。
なんて恐ろしいエンディングでしょう。血の気が引きます。

それでも、最後まで共感できなかったヒロインには、因果応報や自業自得という言葉しか浮かびません。
人を陥れて自分がのし上がろうとする人は、手痛い報復を受けるという命題が、ラストシーンで浮かび上がりました。
強欲まみれの人々の織りなすどろどろの闇の世界。
救いがありません。

自分に見合った人生を、殺意や恨みをかうことなく送るのが、人にとって一番幸せなことでしょう。
元子にしてやられ、制裁しようとする男たちも、明日は彼女と同じ立場になるかもしれないのです。
彼女のように欲深く、きらびやかな世界の裏で騙し騙されながら生きている人は、実際にいるのだろうと思えるほどの、迫力に満ちた物語でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2012年2月15日
読了日 : 2012年2月15日
本棚登録日 : 2012年2月15日

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