ぼくの小鳥ちゃん

著者 :
  • 新潮社 (2001年11月28日発売)
3.60
  • (447)
  • (474)
  • (1117)
  • (64)
  • (15)
本棚登録 : 4964
感想 : 541

タイトル惚れして手に取った本。
ぼくの部屋に、突然舞い込んできて、居着くようになった白い小鳥ちゃん。
カルシウムじゃなくてアイスクリームを食べたいとか、綿を敷いたベッドをしつらえてほしいとか、自分用にスケート靴を作ってほしいとか、必ず翼で彼女との写真立てを倒すとか、なにかとわがままで生意気な小鳥ですが、それを厭うこともなく、愛情を持って面倒を見はじめるぼく。
一見、ラブストーリーのようですが、ぼくにはちゃんと、完璧に近いガールフレンドがいるため、三角関係のような不思議な拮抗が生まれています。

ガールフレンドは、話に少し現実感のスパイスを加えることと、小鳥にジェラシーを起こさせる役割を担った存在だと思います。
ぼくの世話をする、しっかりした大人の彼女と、ぼくが世話をする、子供っぽい小鳥、という対極のタイプの間にいて、幸せそうなぼく。

子供っぽいとはいえ、小鳥もきちんとわきまえていて、彼女の前ではいつも静かにしており、好き勝手言って甘えるのはぼくにだけ。
その辺りの小悪魔っぷり、もう鳥には思えません。

三者とも微妙な関係を保ちながら、さりげない日常が送られていく様子が記されていき、最後まで淡々と読めないこともありませんが、鳥好きの私には、このシチュエーションはとてもうらやましくてなりません。
特に好きなのが、この小鳥と一緒と思われる、白文鳥なのです。
時折、話の合間に鳥らしい仕草の描写が入るところが、たまりません。
あまりにぼくの状況がうらやましすぎて、冷静にストーリーを追えませんでした(笑)。

恋愛関係全般に巻き込まれ型だと思われる受け身型のぼくですが、実は曲者で、今の白い小鳥の前にも、以前迷いこんできたスズメと、1年半も一緒に暮らしていたとのこと。
そのスズメにも小鳥ちゃんと名付けて読んでいたことが語られます。
ペットショップの人にも顔を覚えられているほど、彼は、小鳥キラーのようです。

そんな、過度に小鳥になつかれる彼氏を持つ彼女は、毅然とした大人の女性でないと、妬いてしまってとてもやっていけなさそう。
私がこの話の中で一番なれそうにないのは、小鳥がライバル(?)の、この彼女ですね。

小さいのにこまっしゃくれた利発な少女(?)というキャラクターに、著者の『すきまのおともだちたち』に出てきた女の子を連想しました。
江國香織氏の作品は、特にこのような童話風のものの雰囲気作りがとても上手だと思いますが、エンディングがはっきりせず、解決しない現状維持をにおわせて終わるものが多いのは、私としては物足りないところ。
まあ、小鳥がまた飛び去ってしまうまではこの関係は続くでしょうし、ほかの展開があるならば、童話を超えたどろどろものになってしまいそうなので、妥当な収まりどころなんでしょう。

荒井良二氏のイラストも作品のイメージにとてもよく合っていて、ひたれました。
普通に読むと、小鳥のワガママにイラッとするかもしれませんが、鳥好きにはそこがかわいくて、ぐっとくる話です。
ああ、私の家の窓にも、どれだけワガママでも手間がかかってもいいから、きれいな白い小鳥が飛んでこないかしら。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2011年6月9日
読了日 : 2011年6月9日
本棚登録日 : 2011年6月9日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする