800年後に会いにいく

著者 :
  • 幻冬舎 (2016年8月25日発売)
3.37
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本棚登録 : 146
感想 : 20

冒頭から心をつかまれ、物語世界に引き込まれます。
難しい専門情報も出てきますが、つまづかずに読み進められるレベル。

「よくできた物語だな」というのが読了後の感想です。
よくよく読めば気になる箇所もありますが、大胆さと綿密さをもって話が展開していくため、ほどよく足固めされた状態でぐいぐいと先に進んでいくような印象。

最初は近未来のパニックものだと思い、次にラノベかと思い、それからラブコメかと思い、いやいやミステリーかと思い、よくわからないながらも先が気になり、ずっと読み続けました。

それほど多様な面を持っているのは、作者の力量でしょうし、遊び心ともとれます。
人工知能やコンピュータウィルス、原発やサイバーテロといった深刻な話題とファンタジー要素がほどよく合わさっています。

就職難や9.11のテロ、3.11の大震災などの話も入れ込んでいるため、読者はリアルとSFの混ざった不思議な読書感を味わうことに。
どちらかが苦手な人でも、投げ出さずに読めそうですが、よく考えながら読まないと、分からない箇所を残したまま話が終わりそう。
理系ネタに弱い私は、数回読み直しました。

まず主人公が冴えない男の代表のような青年トビタタビト。
名前が回文になっているというところが、かなりユルイのですが、(いやいや、未来へのタイムワープを暗示しているのかもしれない)と深読みしたくもなります。

思いもよらぬ、800年先の未来の少女からのメッセージを受け取ったタビトは、少女のSOSに応えるべく、未来へ行くことを真剣に考えはじめます。
タイトルを見ても、間違いなく『時をかける少女』のようなタイムトラベルものだと思うことでしょう。

しかしそんなタビトに、周囲の科学者たちは、タイムワープは完全に不可能だという事実を突きつけます。
時空を超えて未来へ行くという、長年人々をワクワクさせてきたSFの古典的テーマをバッサリ否定してしまったことで、この先どうなっていくのかと物語の方向性が気になりましたが、現代の科学技術は、タイムワープに代わる方法を編み出していることが判明。

肉体が800年間もたないため、別の形をとることになるのですが、それは果たして本当に本人なのか。
クローンでもない、別の自己変容法が思いもよらぬ発想で斬新。
なるほど、今日びのタイムトラベルは、こうなるのか!いまいちドラマチック感には欠けるけど、確かに現実的な方法だわ、と驚きと共に読み進めます。

どんどん膨らんでいく物語だと思いきや、終盤で一気に収束してしまった感がある点には物足りなさが残りますし、全体的にかなり都合よく話が進んでいく点も引っかかりますが、荒唐無稽な壮大な話を破たんさせずに無事まとめたのはさすが。
やはり「よくできた物語だな」と思います。

クリスマスイブの夜のハッピーエンドなので、読了感もよく、内気な駄目男がヒロインを守るために頼もしく成長するというヒロイックファンタジー要素も楽しめて、理系ネタやサスペンス要素にフル回転させ続けた頭も、満足できるものとなっています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2017年6月6日
読了日 : 2017年6月6日
本棚登録日 : 2017年6月6日

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