はじめは夢枕獏氏個人の著作かと思いましたが、読み始めてみると、10名の様々な知識人が語る空海像のアンソロジーとなっています。
一口では語れない平安時代のカリスマに、さまざまなアプローチ法で近づいていく興味深い試み。
冒頭は松岡正剛氏。博学多才な知識の豊富さで安定した文章となっています。
空海と日光の結びつきについてこれまで意識したことはありませんでしたが、日光を拓いた勝道上人を彼は深く畏敬していたとのこと。
日光のような霊山を高野山に見つけたのかもしれないという意見が述べられています。
日光の戦場ヶ原は、もともと中禅寺の千手観音にあやかった千手ヶ原という地名であったものが、いつしか本来の意味が失われ、字も変わったとのこと。
日光は二荒から、そして二荒山は補陀落にちなんだ地名だったそうです。
地名からして仏教的な意味合いの強い場所なのだと、改めて感じます。
二十年の留学予定を、二年修行しただけで帰国したという驚きのスピードに目が向けられがちですが、つまりは密教のすべてを師の恵果から学び取り、留学生でありがら、帰国時には密教八代目の祖になっていたという信じられない状況。
密教の六代目の祖、不空まではインド人だったのが、恵果で中国人、そして空海で日本人になっていったというわけです。
国際的にも秀でた恐るべき力を秘めた日本人だったということでしょう。
つい忘れてしまいがちですが、空海は東寺講堂の立体曼荼羅の完成を見ないうちに入定しています。
彼が取り入れた立体曼荼羅については、最後まで心残りだったことと思われます。
また、日本では大師信仰が非常に盛んですが、これと釈迦信仰の兼ね合わせがよくわからずにいたところ、「釈迦の思想はよくわからなくても、それを伝える聖者様はありがたい存在だから拝んでおこうという宗教心」と表現されており、民衆の支持を受けた信仰なのだと理解出来ました。
数々の伝説を世に生み出した空海ですが、幼名は真魚(まお)。
さかなちゃんという意味だと知り、かわいいなと思います。
ジョージ秋山の劇画調の漫画まで載っていたのには驚きましたが、清水義範氏の文章はクリアで、荒俣宏氏は突飛な意外性を打ち出した論を展開しており、内容はなかなか難解ながらも、それぞれの著者の色がよく出ている、飽きさせない構成になっている一冊です。
- 感想投稿日 : 2013年8月5日
- 読了日 : 2013年8月5日
- 本棚登録日 : 2013年8月5日
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