鴉の死 (講談社文庫)

著者 :
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本棚登録 : 17
感想 : 2
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済州島4・3事件に材をとった金石範の小説といえば、『火山島』。でもさすがに手が出ないので、こちらの短編集にしました。収録作品は表題作のほか、「看守朴書房」「観徳亭」「糞と自由と」「虚夢譚」。いちばん印象に残ったのは、やはり表題作です。スパイとしての身分を隠しながら米軍政に協力するという2重生活を送るうちに、いつの間にか底知れぬ残酷さを身につけてしまう男のかなしさ。鴉の死で終わる幕切れも鮮やかです。
だけども短編集全体として高い評価ができないと思ってしまうのは、体制の前で息をひそめていようとする男を揺り動かす存在が、多くの場合、若い女への思慕とされているから。絶対的な権力の前で、どれだけ多くの女性が性暴力の犠牲になってきたかということを考えると、ちょっとこういう女性の客体化には異をとなえたくなってしまいます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 外国文学
感想投稿日 : 2014年9月7日
読了日 : 2010年6月4日
本棚登録日 : 2014年9月7日

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