1920年代、女が男に頼らずに自立して生きていくことが、今よりもずっと困難であった時代に、作家の宮本百合子と、ロシア文学者の湯浅芳子は、熱烈に愛し合った。後に共産党指導者の宮本顕治と結婚した百合子が、「不自然」と著作で否定することになる二人の関係を、芳子へのインタビューや、残された書簡、日記を通してすくい出そうとした力作である。
それぞれが当時の日本社会が女にあたえた役割をはみ出す存在であった二人の関係は、「名前のない」愛、前例のない実践だった。自分自身に内面化された女性嫌悪と同性愛嫌悪、愛情でむすばれた関係の中にもある支配と依存など、彼女たちの直面した問題は、今日にも通ずる部分も多いが、驚かされるのは、激しいほどの真剣さで、相手との関係や自分自身のありようを突きつめ、この実践から多くをくみ上げようとする二人の(特に百合子の)態度だ。それは、社会における自分の生き方、愛する相手との間の違いにもきわめて意識的であった二人の女性の間にのみ生まれえた、稀有な関係であった。
著者は、おそらく何年も、女が女を愛することについて考え抜いた末に、人生をかける気持ちでこの本を書いたのだろう。ひとかたならぬ思いが伝わってくる、力のこもった本だ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
ノンフィクション
- 感想投稿日 : 2011年2月9日
- 読了日 : 2011年3月3日
- 本棚登録日 : 2011年3月3日
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