桃さんのしあわせ [DVD]

監督 : アン・ホイ 
出演 : アンディ・ラウ  ディニー・イップ  ワン・フーリー  チン・ハイルー  チョン・プイ  サモ・ハン  アンソニー・ウォン  ツイ・ハーク 
  • パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
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本棚登録 : 70
感想 : 17
5

何十年間も家事使用人として一家のために尽くしてきたタオさんが脳梗塞で倒れ、それまで彼女に頼り切って生活してきたロジャーは、はじめて自分の方が彼女をケアする側となることを選択する。それは、産まれてこの方当たり前だったタオさんと自分との関係をあらためて見直す経験だった。
年老いていく人の看取りという普遍的なテーマを扱っているが、ロジャーとタオさんの関係は親子のように親密でありながら、社会的には大きな差異によって隔てられている。13歳から70代まで、自分の家族をもつこともなく他人のために働き続けてきたタオさんは、全身に厳しい労働倫理がいきわたり、体がきかなくなっても自分のためにお金を使うことは嫌がる一方で、ロジャーをはじめ他人に対しては甘い。一方のロジャーは成功した映画プロデューサーで、家族も欧米に移住するなど、国境をまたいで特権的な生活を享受している。しかしその生活を支えているのは、タオさんのような肉体労働者たちなのだ。
ロジャーはタオさんの介護費用を負担し、頻繁に訪れては親密な愛情を示すが、一歩間違えれば金持ちの自己満足的な「恩返し」の話になりかねない。この映画がそうなってはいないのは、ロジャーのモデルとなっている映画の作り手が、非常に敏感なセンスをもって、自分の振る舞いやタオさんとの関係を内省的に見つめているからだ。
ロジャーが修理屋やタクシー運転手とまちがわれるシーンは、肉体労働者と知識人の歴然とした階級差を意識させるし、正月で人のいなくなった老人ホームで、タオさんがロジャーの一家から電話をもらったあと、同じように家族のいないケアマネージャーとTVの花火を眺めるシーンには、雇い主との疑似家族的な愛情では満たされない孤独の深さがうつしだされる。細かなディテールの積み重ねによって、親密な愛情という表面の下にある複雑さ微妙さをとらえる細やかなセンスが実にすばらしい。
ただの「いい話」では終わらない、親密さと階級と家族について細やかな内省と洞察に誘う映画である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年5月10日
読了日 : 2013年5月5日
本棚登録日 : 2013年5月8日

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