ミッション終了後、雨後のタケノコのようにちまたに溢れた「はやぶさ」関連書籍とは一線を画す本書。なにしろ初版は2006年なのだから。
2006年といえば、「はやぶさ」プロジェクトが暗礁に乗り上げていたころだ。
05年に無事イトカワに到着後サンプル回収中のトラブルに見舞われ、そのあと年をまたいで46日間の消息不明ののち満身創痍の姿で見つかり、やっと地球に帰れると思ったら今度は四機あるイオンエンジンがすべて停止という最悪の状況に陥っていたのが06年だ。
当時、はやぶさを知るひとは「もうダメだろう。でもよくがんばったよ」という雰囲気だったろう。
本書はそのころに出版された。
「はやぶさ」にとって最悪の状況なうえ、世間では「はやぶさ」なんてまったく気にも留めていなかった。なのになぜ出版されたのか? それは「はやぶさを知ってほしい」の一念だったのかもしれない。
著者の思いは「はやぶさ」だけには留まらないようで、本書では「はやぶさ」の生みの親である宇宙科学研究所の数奇な運命や、「はやぶさ」が目指した小惑星「イトカワ」の名前の由来になった日本宇宙開発の祖、糸川英夫教授の苦心の研究にもかなりの紙面を割いているのだけれど、そのせいでタイトルの「はやぶさ」がかすんでしまっているのが惜しい。
本書を好意的に解釈すれば「はやぶさの背景も含めてよくわかる本」と言える。でもそれにしても背景が多すぎるのだ。これではほとんど糸川教授の一代記になってしまっている。タイトルが「糸川英夫」や「宇宙科学研究所の歴史」だったらタイトル通りだったろうに。
しかし。
本書が柳の下のドジョウを狙ってちまたに溢れる「はやぶさ」本とはまったく違う生い立ちなのは確かだ。
「宇宙科学研究所と糸川教授の研究、そしてはやぶさプロジェクトを知りたい」というのならオススメの本である。
- 感想投稿日 : 2010年9月1日
- 本棚登録日 : 2010年9月1日
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