ふたりの絵本結婚。 (新風舎文庫)

  • 新風舎 (2003年10月1日発売)
4.40
  • (21)
  • (7)
  • (7)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 79
感想 : 20
5

ぼろぼろ泣いた。

ケッコン、なんて、じぶんはぜんぜんしたくないし、する気もないし、憧れもしない。
だけど、古本屋さんでこれを見かけて買ったのは、ラクガキみたいなシンプルな絵と、そこに添えられた短い文章にものすっごい惹かれたから。

あとがきまで読んで、単純に「結婚っていいね」っていう話ではなくて、この絵本に描かれてる作者夫婦は離婚してるのを知った。
それだからこそ、余計にこの絵本に書かれてることに泣けちゃう。

もともとは妻さんに送った私的な絵本の手紙だったそうで、その後、人の勧めで出版して、絶版するたびにちがうところから再出版。
そのさいごの(いまは絶版みたい)出版社からでてる文庫をわたしは買ったんだけど、3度目の出版の初版から2年で3版目、の文庫だった。

さいしょの出版のときには、別居してたんだって。
その後、離婚しちゃって、元・妻の人とは連絡をとりあいながら、ふたりの子どもと会ったりする関係になって。

いまも絶版のままじゃもったいない、っておもう。
アマゾンだと古本でまだ手にはいるみたいだから、人に勧めたいなー、って、ものすごいおもう。
新刊で買えれば、結婚する友だちとかに贈りたいのに。

けっして、きれいなラブストーリー、じゃない。
さいしょは作者(夫の人)の片想いで、だいすきでだいすきで、ラブレターを書いたけど反応なくて、それが偶然の結果、結婚するまでに至って。
子どもも生まれて、仕事も順調。
だけど、結婚してから、仕事がおもしろくなっていく反面、妻は子育てでつかれていって、だんだん結婚生活がつまらなくなって、家に帰りたくなくて、そのうち他所の女の人がよく見えて、その女の人と過ごす時間がたのしくて。
そういう、作者が誠実な夫でなくなっていく過程もちゃんと書かれてる。

別居や離婚の話もでるようになって、妻は笑わなくなって。
そんなときに、仕事がいそがしいある日、妻から電話があって。
それも夜の11時。

[引用]
なんだか
つかれたから
花を買ってきて。
[引用ここまで]

妻は、仕事で2日も帰ってこれないでいた夫の人にそうたのんだの。
こんなに仕事がいそがしいのにまたわがままか、って、夫の人はさいしょはムシするけど。
だいたい、そんな時間に花屋なんて開いてないし。

夫の人はそれでも、仕事を終わらせてから、コンビニに寄る。
でも、花なんて売ってなくて、「花をさがしたけどうってなかった。」って言い訳することにした。

そこから、けっきょく、花を買うんだけど。
その花を買って帰ると、妻は子どもと寝てて。
だから、その横にかざったら、妻が起きて。

花をみた妻が、うれしそうに笑って。

花を買わないで帰るつもりだったのに、妻にどうしても花を見せたくなって、タクシーで夜中の街をさがしまわったのね。
やっとみつけた花屋さんで、あかるい花を花束にしてもらって。

その花をみて、妻が笑って。

夫の人は、それで泣きそうになる。
妻をどれだけ好きだったか、じぶんのきもちをおもいだしたのね。
妻をまだまだ好きだとおもったのね。

[引用]
時はすぎさるけれど
思い出してみたい

そんな事が
ぼくの中に しっかりと
きざまれていたんだ
[引用ここまで]

この絵本では、花を買った夜はまだ子どもはひとりだけみたいで、そのあと、もうひとり生まれたのかなー。
(そこはもう書かれていない)
だけど、そのあとに、別居して離婚して。

この「花を買って帰った夜」があっても、「夫婦」がこわれていっちゃったことがショックで、かなしかったけど。
すきですきでたまらなかった人と結婚して、子どもも生まれて、家族になれたのに、きらいになったわけじゃないのに、いっしょにいれなくなって、家族ばらばらになっちゃう。
そういう「愛しあうふたり」の関係の変化、を他人がわかりきることなどムリだけど。

「すき」っていうきもちだけで、ハッピーにはなれない、そういう切なさに泣けたの、わたし。
夫の人は妻に対して、たしかに誠実じゃなくなって。
子どもに対してだって、けっして「いいお父さん」でもなくて。
だけど、そういうじぶんを正直に書いてる誠実さが、この絵本にはある。

妻が子育てでつかれてるとき、じぶんはその家から逃避して、他所の女の人とたのしくすごしてた話を、妻にわたす絵本の手紙に書いてるぐらいに、誠実。
その誠実さが、妻を傷つけちゃったのかな。
なんてこともおもったけど、それは他人のわたしの勝手な憶測にすぎないしね。

とにかく、誠実な文章に、ものすごいシンプルな絵。
そこに書かれてる誠実な残酷さも、ラブレターになる。
そういう、きれいごとじゃない、正直な愛、が描かれてる、っておもった。

ほんとに、ケッコンする気もない独身のじぶんが、読んでて涙がぼろぼろ出てきて、その涙は拭ききれないぐらい。

なんで、こんなに泣けちゃったんだろ、じぶん。
って、おもう。

結婚する友だちに、この絵本、贈りたい。
新刊じゃなくても、それでも贈りたくなる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2017年3月3日
読了日 : 2017年3月2日
本棚登録日 : 2017年3月3日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする