少女の器 (角川文庫 は 20-16)

著者 :
  • KADOKAWA (1999年3月1日発売)
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本棚登録 : 359
感想 : 42
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離婚家庭で暮らす思春期の少女・絣。一緒に暮らす母は奔放な恋愛を繰り返し、絣はたびたび傷つきながらも日々母への理解を深めてゆく。
そして傷ついた時に絣を癒してくれるのは、版画家である別れた父だった。
絣、両親、そして不良のボーイフレンドを主軸に、彼女たちを取り巻く少し変わった人たちの物語。

自分も離婚家庭で育って、母と暮らし時々父と会う思春期を過ごしたから、重なるところがあるなと思いながら読んだ。(私は絣ほど父と頻繁に会っていたわけではないけど)
絣は思春期らしくとても繊細で傷つきやすいのだけど、発する言葉や思想がびっくりするほど大人びていたり、哲学的だったりする。だけど大人と違って真っ直ぐにぶつけすぎてしまうところはやっぱり少女で、その危ういバランスがとても魅力的な女の子だと思う。
「パパとママはまるで違う性格だけれど、人間とか、人間の関係なんていろいろあるという考え方はいっしょでしょ」
こういう言葉に表されるように、絣は周りの人間のことをとてもよく観察して理解している。
そしてそれは絣の両親やボーイフレンドも似ているところがあって、人をよく見て理解して行動する、という温かさがある。
不良のボーイフレンドが幼馴染みで精神病を患っている女の子と接するシーンなんかにも、そういう感じがとてもよく出ている。ただ優しくするだけが相手にとって優しいわけではない、ということ。

腹立ちまぎれに勢いで放ってしまった言葉が相手を傷つけることとか、やってしまったことで後悔して嘆くこととか、家族間でもやってしまったりする失敗がたくさん描かれていて、子どもも大人も関係なく情けないところが愛おしく、そういうことを乗り越えながら人を理解していく感じが光る小説。
少女の成長の小説、というほど仰々しくはなくて、日々の様々な出来事の積み重ねで少しずつ大人になっていくようなささやかさが良かった。

ドキッとする台詞満載で、それは作者の哲学や思想なのだろうけど、放つ人間の世代や性別“らしさ”がきちんとあるから違和感がない。
久々に付箋を貼り付けたくなる小説でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2016年9月23日
読了日 : 2016年9月23日
本棚登録日 : 2016年9月23日

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