トリツカレ男 (新潮文庫)

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本棚登録 : 4926
レビュー : 814
夜さん ファンタジー   読み終わった 

1時間ほどで読みきれる、短く読みやすい本。
少し児童文学や絵本っぽい雰囲気もあって、タイトルの不穏さとは真逆の、温かい雰囲気の作品。

ジュゼッペのあだ名は「トリツカレ男」。何かに夢中になると、寝ても覚めてもそればかり。オペラ、三段跳び、サングラス集め、潮干狩り、刺繍、ハツカネズミの飼育etc.
そんな彼が、寒い国からやってきた風船売りの少女に恋をした。無口な少女の名は「ペチカ」。
悲しみに凍りついたペチカの心を、ジュゼッペは持てる技の全てを使って温めようとする。

ジュゼッペの純粋な姿から、何かに夢中になったり、一生懸命取り組むことの眩しさに気づかされる。
大人になると「どうせそんなことしたって」と言い訳をして、夢中になることから遠ざかっていく。その言葉を免罪符にして、失敗することを避けようとするからだ。
でも大人になっても純粋さを失わず、失敗も恐れず、挑戦することをやめない人だっている。そういう人は後ろ指も差されやすいかもしれないけれど、それはそうは生きられない嫉妬心が周りの人間にあるからなのかも。

ジュゼッペはいつも何かに夢中で、周りはそれを揶揄して「トリツカレ男」と呼んでいる。半分馬鹿にしていて、半分は愛おしさがこもっている呼び名。
そんな彼がある日恋をした。その相手、ペチカは異国から来たばかりで友だちもおらず、ジュゼッペは友人でもあるハツカネズミの助言で彼女に「友だちになろう」と申し出る。
ペチカに「トリツカレタ」ジュゼッペは、悲しみが潜む彼女をどうにかして明るくさせようと頑張るのだけど、その中でジュゼッペがこれまで夢中になってきたあらゆることが役立つのがおもしろい。
一生懸命やってきたことは、何かのときに役立つ。そのとき目に見えるかたちにはならなくとも。それは物語上だけではなくて、現実でも大いに有り得る。

第3章の「タタン」から第4章の「長い長い冬」まではとても切ない。ジュゼッペのペチカを想う心が思わぬ出来事に繋がっていく。
だけどやはり、一生懸命に何かに打ち込むことは、何かのタイミングで実りに変わっていく。

短時間で読める温かなストーリー。
読んだ日がクリスマスだったのだけど、それも何か意味があるような気分になった。

レビュー投稿日
2017年1月2日
読了日
2017年1月2日
本棚登録日
2017年1月2日
3
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