田舎の紳士服店のモデルの妻

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レビュー : 145
著者 :
夜さん 家族   読み終わった 

東京から夫の故郷に移り住むことになった梨々子。田舎行きに戸惑い、夫とすれ違い、一時の恋に胸を騒がせ、変わってゆく子供たちの成長に驚き…。
30歳から40歳、“何者でもない”等身大の女性の10年間を2年刻みで描く、じんわりと胸にしみてゆく愛おしい“普通の私”の物語。

若い頃は自分自身に希望を持っていて、“何者か”になることを望んだりする。
有名人になることだったり、何かで名誉を得ることだったり、高いステイタスを持つ人間の妻に収まることだったり。
そこら辺にいる人間と自分は違うはずだ。私は“何者か”になるべき人間なのだ。という、思い込みを持って生きていたりする。
だけど現実は、“何者でもない”人間に収まることがほとんどで、何者でもない自分に、徐々に折り合いをつけていく。

この小説の主人公・梨々子もそうで、東京に住み、普通より美人で、エリートサラリーマンである竜胆達郎の妻の座に収まり、子どもを2人得て、まさに順風満帆の人生を歩んでいた。
だけど夫の達郎がうつ病になり、仕事を辞めて郷里の北陸に帰ると言い出したことで人生が一変する。
生まれも育ちも東京である梨々子には、人と人の距離感が近い田舎での暮らしは慣れないことばかりで、そこで家庭を営むことやなかなか元に戻らない夫に不満を覚え、いつかまた東京に戻りたいという希望を当初は抱く。
だけど日々をそこで暮らし続けることで、意識が徐々に変化していく。

田舎で暮らすということは田舎で暮らしたことがある人にしか分からない感覚があると思うけど、世間が狭いから人間関係は自然と密になるし、都会と比べて視野が狭い人が多いのも事実だと思う。
何が幸せかは人それぞれだけど、“何者か”になりたいと強く望む人が居続けるのは、きっと耐えられない。
そんな中で少しずつ自分にとっての幸せを確認し歳を重ねていく梨々子の姿はとてもリアル。単純に善い人じゃなくて、愚痴っぽかったり他人に対して黒いことを思ったり、失敗も多々あるところがさらにリアルだった。
著者の宮下さんは福井県出身のはずなので、もしかしたら土地のモデルは著者の地元なのかもしれない。

東京であんなに格好良かった夫の達郎が、地元に戻ってから小さな紳士服店のチラシのモデルを務め始めた。
そんなダサいこと嫌だ。と、最初は思っていた梨々子だったけど最後には…。
その土地に10年住んで受け入れてしまえば、その人も立派な地元人だ。

“何者でもない自分”を受け入れていくということは、けして諦めることではなくて、自分なりの幸せを見つけて育んでいくことなのだと思う。
結婚や出産を、するしないに関わらず。
30歳から40歳までの女性のリアルが、ここには詰まっている。

レビュー投稿日
2017年3月16日
読了日
2017年3月16日
本棚登録日
2017年3月16日
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