それぞれが違う形で前のパートナーをなくした男女が再婚し、お互いの連れ子合わせて三人と、新しく出来た一人の子どもで、合計六人の家族が出来上がった。
素敵な家に移り住み、家族仲も良好で、素晴らしいスタートを切る。それは幸せな人生づくりの完璧な再出発かと思われた。
しかし落雷が原因の長男の死をきっかけに、長男を溺愛していた母がアルコール依存症となり、一家の姿は激変する。
家族だからと言って何でも遠慮なしに振る舞って良いわけではなくて、むしろ家族だからこそお互いが少しずつ我慢をしたり役割を演じたりしてどうにか家族というものは形成されていく。
この本を読む以前から思っていたことが、この本を読んでますます深まったように思う。
突然不在になってしまった長男の存在が、長きに渡って家族たちに影響を与え続ける。
見える形で壊れてしまった母親はある意味では一番幸せで、あまりにも出来過ぎたヒーローのような存在だった長男の夭逝は、兄弟たちを様々な形で苦しめる。家族内でも、そして学校でも。
人間は必ずいつか死ぬのだから、死というものは全く特別なものではない。だけど幼い頃に兄をなくしてそれぞれに苦しんだ兄弟たちは、死に対して偏った思いを抱くようになっていく。
大切な人の死を、時間をかけて昇華して、自分を取り戻していくということ。
それを放棄してしまった母親に振り回され続けた家族が、長い時間の後にした選択は、けして前向きではなく切なく見えたけれど、それが長い時間をかけて流れ着いた場所なのだと思った。出来うる限りの、最良の選択。
そして最後のページで驚きが。
長女、次男、次女、そしてみんな。という視点で綴られた四章の短編連作。
長男の死や家族に対するそれぞれの思いと苦しみ。人間の黒い面や綺麗事では済まされない部分もたくさん描かれていて、山田詠美さんの小説の中に垣間見える哲学は今回も健在。
「かわいそうという言葉は、言われる側に言ってもらいたい人を選ぶ権利がある。決して自分のプライドを傷付けない、と信じている人にだけ言われたい」という次男の言葉が印象的だった。
上から目線ではなく心から人を「かわいそう」と思える人は、果たしてどれくらいいるのだろう。
- 感想投稿日 : 2015年10月28日
- 読了日 : 2015年10月28日
- 本棚登録日 : 2015年10月28日
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