この作家さんも初読みであるが、前から興味は尽きなかった。既に故人であり遺作となったのが本書であり、初読みとしてこの選択はどうだったのか?
正解であったと思う、独特な世界観と人物造詣、そして性描写を持つ作家さんであると思う。59歳で鬼籍に入られたとのこと…とても惜しまれる。
物語は幼馴染の男女、そして出版業界に携わる二人が人気女流作家と関わることによって3人が友情を深めていく前半、しかし女流作家が飼うローマニアン・シープドッグなる大型牧羊犬を巡り、彼等の関係に亀裂が入る。まもなく東京でSARSウィルスが猛威を奮いはじめて…という中盤からラスト。
まず前半から登場人物、特に女性の造詣がとても良い、20代と40代の女性が登場するが、清廉でいて淫らというか、記述がないのに行間からに匂ってくるようなのである。しかも年齢によるそのあたりのさじ加減も考慮されてるかのようで、これは読者の感じ方もあるだろうが、自分には刺激が強く伝わってきた。男性はやや頼りなさげであるが、女性キャラを引き立てるにはこれくらでいいのだろう。
中盤以降SARSウィルスの感染源をたどっていくサスペンスタッチも疾走感溢れ、歌舞伎町~大久保界隈での隔離政策に因を発した暴動シーンなどもリアリティ溢れ引き込まれる。パンデミックの真相に迫っていく筆致もよかった。そして悲劇は誰にでも平等に訪れる不文律を、実にあっさりと描き読者を唖然とさせる。そこから世界は暗転した…
以下ネタバレです
ラストにこのような展開は予想だにできなかった、どこからが虚構なのか?現実はなんだったのか?はたまた並行世界での異なる物語だったのか?描かれた世界をひっくり返して物語は終わり読者を迷宮に取り残す。これがどうやら打海氏独特の世界観のようである、なんとも困ったことにいいじゃないか!自分はやられてしまった、胸元をぐっさり抉られてしまった。
この世界の反転の入り口にめくるめく性描写をおいているのもよかった、快楽の果てにたどりついた世界が虚構だったと気付く、いやこちらが現実で前が虚構だったのか?主人公の狼狽は自分に伝染した、あたかもSARSウィルスのように。
- 感想投稿日 : 2012年5月23日
- 本棚登録日 : 2012年5月22日
みんなの感想をみる