武田遺領をめぐる動乱と秀吉の野望: 天正壬午の乱から小田原合戦まで

著者 :
  • 戎光祥出版 (2011年5月1日発売)
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天正壬午の乱から小田原合戦まで(戎光祥出版 平山優著)を読む。

「天正壬午の乱」を経て、初めて全貌が明かされる。
秀吉・家康・北条・上杉の代理戦争。真田昌幸ら信濃国衆の活躍と、「天下統一」への道。2011年の刊。
 序 章 波乱の天正十年 戦国史の転換点
 第一章 天正壬午の乱後の東西情勢
 第二章 「織田政権」の崩壊と信濃の情勢
 第三章 秀吉の影
 終 章 残照記

昨年7月に購入したもののなかなか、読む気が起きず1年遅れで読了。
なかなかの力作であり、読むのも骨が折れたが期待通り面白い。前著の「天正壬午の乱」の方は未読であり、読む順番を間違えた。(まあ、本書を買うまで存在を知らなかったのだが)

従来は、本能寺の変のどさくさに、徳川家康が甲信を掠め取ったという見方(神君家康素晴らしいという肯定的な感じで語られるが)であったと思う。ところが、本書では、家康は信長亡き後の織田政権の承認を得たうえで、甲信へ侵攻したこと。信濃全域を制圧した訳ではなく中南信のみであったこと。知行宛行約諾の不履行に対する処理を誤り、相次いで信濃国衆に背かれたことが解る。(織田家の家督は信雄にいっていたというのも知りませんでした。)

それにしても、大国の代理戦争が成立したのは何故だろうか。本書を読むと、秀吉・家康・北条・上杉の4者ともに圧倒的強者という訳ではなく、弱みを抱えていたことがわかる。最終的には、秀吉による天下統一に収れんされていくのであるが、そこに至るまでの間においては、国衆が自己の才知により付け入る隙があった。長野県人としては、大国を手玉にとる信濃国衆の活躍を知ることが出来て面白い。

また、あとがきも熱い。著者は「極めて杜撰でいい加減な歴史書が書店に氾濫することや、史料とまともに格闘せず、地道な基礎研究を行うこともなく、先人の業績に敬意も注意も払わず、思いつきと勝手な想像だけで物を書いて恬として恥じることのない作者たちの存在」に危機感を抱いているが、この状況を変化させるためには、「私たち自身がしっかりとした基礎研究を行い、それを踏まえて地に足のついた歴史像を提起するしかない」としている。今後の著作にも期待したい。
本書は、天下統一の過程を知る上で必読の書である。齊藤慎一著の「戦国時代の終焉」と併せておススメしたい。

備考
先日、読了した小和田哲男著「歴史探索入門」に取り上げられていた「屋代家文書」が本書でも取り上げられていた。史料が発掘され研究に生かされているのをみると、歴史学の醍醐味を知る事が出来た。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史(戦国)
感想投稿日 : 2012年8月16日
読了日 : 2012年8月16日
本棚登録日 : 2012年1月23日

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