生命と食 (岩波ブックレット NO. 736)

著者 :
  • 岩波書店 (2008年8月6日発売)
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感想 : 19
5

『生物と無生物のあいだ』、『世界は分けてもわからない』、『できそこないの男たち』などの著書で知られる、福岡伸一先生の書。

なんというか、福岡先生の文章はのどごしのいいうどんのよう。論じる内容は、生物学的専門性に裏打ちされたかなり“ぶっとい”理論なんだけど、生物学に明るくないこの私にも、スルスルとのみこみやすいのである。何がそうさせているのかな、と考えてみる。たぶん、それは福岡先生が“例え上手”であるからだといえるのではないか。

物事を“例える”という行為は、普段それほどすごいものには感じられないけど、これはなかなか高尚な能力だと思う。なぜならそれは、説明したいaの事柄について、まずその本質をしっかりと理解し、続いてそれと高い相似性が認められるbという事例を、日常の経験の中から探しだすという、なかなか難易度の高い思考法だからだ。

福岡先生は、それをあっさりやってのける。しかも、絵画や教育学、物理学など、およそ自分の専門性とは関係のないところから、そうした“例え”をひっぱりだしてくる。福岡先生は、博覧強気の人である。


さて、内容面について。本書はまず、「物事を区別して考える人間の思考法」を批判することから始まる。言いかえれば、分析的思考法批判である。

ある事象というのは、他のあらゆる事象との多様な連環、しかもインタラクティブな連環のうちにあるもの。でも、人間はそうした連環を鑑みず、物事を区別し、切り出して、考察していく。そうした人間の思考様式が問題なのだ、おそらく福岡先生はそのように言いたいのだと思う。

次に、そうした人間の分析的思考法が招いた厄災の代表例として「狂牛病問題」を論じていく。というより、「狂牛病問題」を論じる枕として、分析的思考法の批判が最初に行われたと言った方が適切か。

ブックレットで60ページちょっとしか分量はないけど、「いのち」と「食」に関して、たっぷり考えさせられた。個人的には、読者を知的に昂揚させることができる本を「良書」と考えている。したがって、福岡先生のこの本は良書中の良書!!本当におもしろい!!

本書の最後で福岡先生はこのように論を締め括っている。とても印象的だったので、引用しておこう。

「食物とはすべて他の生物の身体の一部であり、食物を通して私たちは環境と直接つながり、交換しあっています。だから自分の健康を考えるということは、環境のことを考えることであり、環境のことを考えるということは、自分の生命を考えるということでもあるわけです。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年8月7日
読了日 : 2013年8月7日
本棚登録日 : 2013年8月7日

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