根をもつこと(上) (岩波文庫)

  • 岩波書店 (2010年2月17日発売)
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感想 : 10
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 根をもつこと、というこの題名から何を想像するだろう。ヴェイユという独特な哲学者についてあらかじめ知っていなければ手に取ることもないのではないだろうか。ここにいう「根」とは、周囲の集団や環境から喜びや生きがいを汲みとる人のあり方といったものといえようか。根をもつことをヴェイユはこう定義する、「根をもつこと、それはおそらく人間の魂のもっとも重要な欲求であると同時に、もっとも無視されている欲求である。また、最も定義のむずかしい欲求のひとつでもある。人間は、過去のある種の富や未来へのある種の予感を生き生きといだいて存続する集団に、自然なかたちで参与することで、根をもつ。」(上巻p64)。
 人は根をもつ必要がある。ヴェイユのこの洞察を基礎に、戦前戦中のフランスの労働者、農民そして、国民としての根が失われている状況、いわば根こぎについて述べる。それらが、ナチスドイツによるフランスの占領を招いたことと織り交ぜて語られる。そして、下巻ではこのような状況を作り出したフランスの歴史を検討しつつ、将来のフランスにおける根の回復、根づきについて語られる。
 この本をどう読んだらいいか。哲学者ヴェイユの警句としてよむか、社会変革のプログラムと読むべきか。ヴェイユが、条件を付きながらも希望をかけていたド・ゴール政権が戦後このような形にならなかったことを私たちは知っている。
 ヴェイユ自身がいうように、「歴史上純粋な事柄はごくわずかだ。そのわずかなものの大半も、くだんの(自身のために拷問にかけられた奴隷の責め苦を見るに忍びず、自ら出頭した)主人や十三世紀初頭のベジエの住民のごとく、その名が消えてしまった人びとにかかわる。」(下巻p75 ()は書評者)。そういうものの一つとして、この本もあるのだと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学
感想投稿日 : 2019年11月3日
読了日 : 2019年11月3日
本棚登録日 : 2019年11月3日

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