中国行きのスロウ・ボ-ト (中公文庫 む 4-3)

著者 :
  • 中央公論新社 (1997年4月18日発売)
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感想 : 415
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「中国行きのスロウ・ボート」「午後の最後の芝生」「土の中の彼女の小さな犬」が良かった。


『僕は本のページを閉じて指の腹で目をこすった。それから右手の中指で眼鏡のブリッジを押しあげようとして、眼鏡がないことに気づいた。眼鏡がないというだけで人はずいぶん手持ち無沙汰になってしまうものなのだ。我々の日常生活はほとんど意味のない些細な動作の集積で成立している。』
ここよかった。それにしても案外、句点が少なかったり漢字をひらいてたりしてるんだなあ。
それに彼女が預金通帳を取り出すために、ウィスキーの箱に入れて庭に埋めた犬を掘り出すところは、ほとんどゾッとするようなものを感じた。
1年前に自分の分身のように愛着を感じていた犬を掘り起こす。友達を助けるためと思い、一緒に埋めた預金通帳を手に入れるために。それには変な匂いがついていた。そして、お気に入りのセーターでくるんだ犬の遺骸は、それからはみでて少し見えた。だけど、彼女は、何も感じなかったという。その感情の喪失、愛情の喪失は、悲しみも懐かしさも覚えない自分はまるで真っ当な人でないんじゃないのか、倫理を踏み外しているのではないか、という気持ちにさせ、その自分の変化に悲しい気持ちになる。よくわかります。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2014年7月18日
読了日 : 2014年7月18日
本棚登録日 : 2014年7月18日

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