月の表面にある「渇きの海」。それは、あまりの細かさ故に液体のような特性を示すミクロの砂が海のように広がる月有数の絶景地である。観光客を乗せてこの「渇きの海」を遊覧する船が、突然の事故で「渇きの海」の底深くに埋もれてしまう。軽量のダストスキーしか近づけない「渇きの海」のただ中で、砂に埋もれた観光客と遊覧船スタッフを救い出すために、果たしてどんな作戦が取られたのか?救出作戦の顛末は?
クラークがこの作品を執筆した当時、月表面には「渇きの海」のようなエリアが実在すると考えられていたそうです(実際には観測されていません)。この作品の真骨頂は、執筆時点における最先端の科学理論を前提として広げ得る想像力の範囲内で100%物語を構築している、つまり「その時点での嘘は一切ついていない」ということ。まるでドキュメンタリーを読むかのような筆致、まさに未来の「プロジェクトX」。ハードSFの代名詞・クラークの面目躍如たる佳作です。
ただし、あくまでも月面の一エリアでの出来事の描写に終始するストーリーですから、スケール感はかなりこじんまりしてます。また、いかにもクラークらしく、キャラクターの人物造形はステロタイプで深みはありません。それでも面白い、と思えるのは、ひとえにこの作品がジャンルSFだからだと鴨は思います。SF初心者にこそ読んで欲しい作品ですね。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
SF(海外・長編)
- 感想投稿日 : 2013年5月13日
- 読了日 : 2013年4月8日
- 本棚登録日 : 2011年9月17日
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