屍者の帝国 (河出文庫)

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本棚登録 : 1940
レビュー : 193
ま鴨さん SF(日本・長編)   読み終わった 

時は19世紀のロンドン。死体にあるソフトウェアをアップロードすることで「屍者」として動かし、労働力として活用することが一般的になっているこの世界において、優秀な医学生ジョン・ワトソンは諜報機関の大物「M」の誘いを受け、大英帝国の諜報員として英領インドに旅立つ。目的は、「屍者の帝国」を作ろうとした男の秘密を探り出すこと。次々と現れる謎の協力者たちやライバルたちや美女との権謀術数をくぐり抜けながら、戦乱のアフガニスタンへ、開国直後の日本へ、興隆著しいアメリカへ・・・世界各地を転々とするワトソンは、やがてある書物が全ての謎を解明する鍵となることを知る。その書物は今どこに?そして、書物と屍者をめぐる壮大な可能性とは?

夭折したワン・アンド・オンリーなSF作家・伊藤計劃が書き遺したプロローグとプロットとを基に、円城塔が完結させた合作。
伊藤計劃も円城塔も、どちらも読んだことがある鴨としては、全くテイストの異なるこの二人の作家がどのように融合あるいは化学反応を見せているのか、その点を楽しみに手に取ってみました。伊藤計劃のプロットに忠実に書き進めたとはいえ、伊藤計劃自身が手がけたのはプロローグの30ページ程度のみ。たぶん相当に円城塔寄りの作品になっているのでは、と予想してたんですが、読了後の感想は「思ったよりも伊藤計劃」でした。

といっても、他の伊藤計劃作品とはかーなり違います。ジャンルとしては歴史改変もの、更に絞ればスチームパンク。これまでの伊藤計劃作品は現実社会と地続きの世界観の中、やたらと内省的な登場人物たちが個人の内面でいろいろと葛藤しつつ社会との軋轢にも苦しむというダークでクールなイメージで統一されていますが、この「屍者の帝国」はもぅ登場人物からしてパロディそのものですし、キャラの立ちまくった漫画的な脇役たち、スラップスティックな場面展開とド派手な戦闘シーン、ファンタスティックで絵画的なクライマックスと、何ともまぁ賑やかなこと賑やかなこと。正直なところ、少々とっ散らかって収拾がついていない印象も無きにしも非ずです。
が、そんなおもちゃ箱のようなストーリー展開の底辺を重低音のように貫いているテーマ、「言葉と認識」「言葉と人間」の関係性というテーマが実に伊藤計劃的なんですね。「虐殺器官」も「ハーモニー」も、同様のテーマあるいは問題意識から書かれた作品だと鴨は理解しています。そういう意味で、この作品はまぎれもなく伊藤計劃の作品と言えますし、そこを最大限尊重してラストまで書き切った円城塔の力もたいへんなものだと鴨は思います。まぁ、クライマックスに至るまでのファンタスティックな突っ走りぶりは、伊藤計劃のプロットに従ったとはいえ思いっきり円城塔ワールドになっちゃってますがヽ( ´ー`)ノ

ただ、鴨的には残念ながらストーリー全体のとっ散らかりぶりが目についてしまい、かつSFというより幻想小説だろコレといった印象もあって、面白かった!と言い切るには至らないところ。どちらかというと、円城塔慣れしている人にお勧めかもしれません。伊藤計劃しか読んだことのない人がコレを読むと、相当ビビると思います(笑)

レビュー投稿日
2015年8月16日
読了日
2015年7月31日
本棚登録日
2014年11月11日
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