慶應義塾文学科教授 永井荷風 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社 (2018年12月14日発売)
3.25
  • (0)
  • (1)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 19
感想 : 2
3

モダニストとしての永井荷風から晩年の江戸下町文化を愛する反モダニストとしての永井荷風の生まれ育ちにも焦点を当て、また荷風門下と言える慶應義塾関係の文学者を要領よく紹介してくれる興味深い評論です。ただ、この著者の末延さんという方は針小棒大というか、僅かな言葉やささやかな事実から、妄想を逞しくして無理矢理自分の望む方向に勝手に人々の心を忖度してそれで自己満足しているところがあります。第一、多くの女性を書き、そして女性と交わることが多いとしても稀代の好色文学者、という荷風に対するレッテルにも、違和感があります。またロシア女性を口説いて振られたときに、日露戦争時だったために、ちょっと「国家と個人とはどうしても一致せぬものです」と荷風が書いたからと言って、そこから末延さんは男と女の性的対関係性において国家と個人は矛盾・対立し、、、(中略)、、明治の絶対主義的国家体制下にあってきわめて危険で反逆性をはらんだ思想と言わざるを得ないのであって、荷風はそのような国家と個人の両立し得ない関係性を「性」において見抜いた、など、何をこの人は言っているのだろうと思わず吹き出してしまったほどです。さらに末延さんは何か勘違いをされているのか思い込みがあるのか、荷風の門下生と言える佐藤春夫や堀口大学が、大東亜戦時中に反戦的でなかっただけでなく愛国的翼賛詩歌を詠ったことが、極悪のようにおっしゃっています。そしてそのことを持って荷風と彼らでは文学者としての精神、志の高さと強さが根本的に違うとまで言い切ることに驚きを感じぜずにはいられません。その上堀口大学が戦争詩を書いたのは立場上仕方なくやむを得なかったとまで勝手に忖度するのです。アメリカだってフランスだって中国だってどこの国であれ、自分の国が外国と戦っていれば心ある国を愛する詩人や文学者は間違いなく愛国的詩を書いているのです。自然なことです。それを日本人がやると悪いことにでもなるのでしょうか。さらに付け加えると堀口大学が戦後25年近くも経ってから書いた「新春 人間に」と言う詩を戦争詩を書いた反省から心を入れ替えて書いた詩だと言って絶賛しています。自分の思想に都合の良い解釈としか思われません。そういう思想性を持った色眼鏡で評論されているのが非常に残念な本です。文学者はそれほど偉いものではないでしょう。荷風も末延さんのおっしゃる反国家、性による国家の解体とかそのような強化な思想を持っていたわけではないでしょう。ただそれが好きか嫌いか、そういう事ではないでしょうか。まあそれでは本として成り立たなくなるのかも知れませんが。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年12月30日
読了日 : 2019年12月30日
本棚登録日 : 2019年12月30日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする