【感想文】
外交の場における誤訳を取り上げた翻訳論議。個人的には、褒めたい面と貶したい面の両方がある。
本書の元は『ことばが招く国際摩擦』 (ジャパンタイムズ、1998年)。またこの文庫は後に〈新潮文庫〉に再収録された。
【版元】
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
ISBN 978-4-10-145921-9
C-CODE 0180
整理番号 と-16-1
ジャンル 英語、翻訳
定価 562円
◆原爆投下を招いた、たった一語の誤訳とは!
原爆投下は、たった一語の誤訳が原因だった──。突き付けられたポツダム宣言に対し、熟慮の末に鈴木貫太郎首相が会見で発した「黙殺」という言葉。この日本語は、はたして何と英訳されたのか。ignore(無視する)、それともreject(拒否する)だったのか? 佐藤・ニクソン会談での「善処します」や、中曽根「不沈空母」発言など。世界の歴史をかえてしまった誤訳の真相に迫る!
〈http://www.shinchosha.co.jp/sp/book/145921/〉
【目次】
目次 [003-007]
序章 誤訳はなぜ起きるのか 011
「訳す」という日常的行為 「翻訳」の種類 「通訳」の種類 境目があいまいな作業もある 誤訳とは何か 誤訳は異文化との取り組みのあらわれ
第一章 歴史を変えた言葉 023
原爆投下を招いた一つの言葉 024
誰が翻訳したのか 無視された言葉の重み 「黙殺」の意味 一語によって変わった歴史
佐藤・ニクソン会談の失敗的 036
通じなかった腹芸 「善処」した結果が…… コミュニケーションの失敗が招いたニクソン・ショック 「脅迫」でまとめられた交渉
比喩でねじれた防衛談義 048
通訳者の勘違いか 「ハリネズミ」は伝わるか 比喩のむずかしさ
「不沈空母」発言の真相 058
中曽根発言の真意 二転三転した報道 「日本語ではいってない」 奇妙な不一致 「日米運命共同体」という思想は理解されるか
誤訳が生んだ経済摩擦 077
マスコミ訳の問題 一人歩きする訳語の危うさ 「フェア」と「公平」 同じ言葉が伝える異なる中身 「理解」という名の「誤解」 「開放」と「オープン」 「オフレコ」の定義 通訳抜きで行なわれた経済交渉
第二章 外交交渉の舞台裏 097
確信犯的な誤訳 「日米構造協議」の名称はどのようにして決まったか 「コマンド」は「指揮」ではない? 日米防衛協力指針の見直しのごまかし 「周辺事態」とは 「実力行使」なら平和的なのか
第三章 ねじ曲げられた事実 131
幕吏の階位を詐称したオランダ通詞 ジョーン・バエズ日本公演のミステリー CIAの圧力だったのか? 東ティモール視察国会議員団事件
第四章 まさかの誤訳、瀬戸際の翻訳 157
誤訳と思われていない誤訳 「オーク」に変身した楢 「ホトトギス」はどう訳されてきたか 「蛙」の詩的イメージを崩さないためには 「赤毛のアン」にも登場するオレンジ色の猫 うさぎの目の色
第五章 文化はどこまで訳せるか 179
『斜陽』の中の「白足袋」 語り手の文化か受け手の文化か 中国近代の翻訳論 日本語にならない英語、英語にならない日本語 野球とベースボール
日本語の価値観 200
「倫理」と「ETHIC」 海部発言への反論 日本人にとっての「倫理」とは 「神」と結びつくアメリカ人の倫理 国際舞台で問われる「反省」の意
沈黙だけは訳せない 222
「ノー」にもいい方がある 沈黙という日本語 何も発言しなかった村山首相 発言者が黙っていては通訳できない
論理思考の壁 236
支離滅裂に映ったフセイン大統領 英語は「直線型思考」、日本語は「渦巻き型思考」 日本人の思考方法は損をする 論理構成は訳者が変えられない ネイティブ・スピーカーはどう感じるか
第六章 通訳者の使命 261
通訳者の倫理 262
通訳者の守秘義務 通訳者は透明な存在 シーボルト事件で罰せられた通詞たち シーボルト事件の教訓 新大陸の通訳者たち 部族の裏切り者と呼ばれ 日本の通詞は幕府の役人だった
多文化時代における通訳 277
通訳は不要か 首相の失敗 外交交渉では通訳者を介すべき コンピューター翻訳の限界 人間だからできる技 より科学的な通訳研究を 重要な発言者と通訳者のチームワーク
参考文献 [289-296]
あとがき(二〇〇一年三月 鳥飼玖美子) [297-299]
- 感想投稿日 : 2019年12月3日
- 本棚登録日 : 2018年6月19日
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