神話と象徴のマーケティング‐顕示的商品としてのレコード‐

  • 創成社 (2014年10月20日発売)
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【感想】
 本書の位置づけは、本書のメインテーマと同じくらい難しいかもしれません。

 「人はなぜ物を買うのか」という(消費者心理のトピックとしての)問いかけについて、J. BaudrillardやW. SombardやT. B. Veblenといったビッグネームを基にして、著者が色々考えたことをまとめた本。
 薄い本に原始仏教(シューマッハ的な)とかトルストイの芸術論とか重めのレコード趣味とかを盛り込む欲張りな姿勢を、私は楽しめましたが他の読者がどう受けとるかは全く予想がつきません。本書を単なる学術研究ではなく随筆集とのオーバーラップが多分にある本だとカテゴライズし直せば、内容がやや散漫であることにも目をつむれるでしょう。実際、学部生向けの「読みやすさ」が、相当程度意識されているはずですから。

 本書には冒頭から、「○○というテーマは数量研究になじまない性質なので、普通の経済学では扱えない。ゆえに構造主義的アプローチが有効」(大意)という文言もあって、私の古い経済学観が一新されました。消費者心理の研究って難しそうですね。
 なお、巻末の索引には「構造主義」が拾われていませんし、本文でも「構造主義とは何か」なんて説明されていませんから、勇敢かつ勤勉な読者は、「記号」も併せて基本的な知識は自分で調べましょう。

 最終章にて、顕示的消費について説明した部分(pp.127-145 下記目次では「第2節 顕示的消費の所説」にあたる部分)が、学説のまとめになっているので、忙しい人はそこだけ読んでください(内心をぶっちゃけると、ここだけ読んでも何とかなるのではないかと)。私が本書を一周したときは、むしろ第一章の冒頭にこそこの説明を置くべきではないかと愚考しました。

【書誌情報】
『神話と象徴のマーケティング――顕示的商品としてのレコード』
著者:横川 潤(1962-) 商学、マーケティング、フード・サービスの研究。(日本の飲食分野の)評論家。
[https://senseizukan.jp/adai/jun-yokokawa]
出版社:創成社
発行形態:書籍
判型:A5
頁数:200頁
ISBN:978-4-7944-2445-7
C-CODE:C3034
価格:2,100円+税

 なぜ,人は希少価値の商品を買うのか? ブランド力と購買動機のつながりを探る。
https://www.books-sosei.com/book/24457.html


【目次】
口絵 [1-4]
序 オリジナル神話 [iii-ix]
目次 [xi-xiii]


第1章 オリジナルとその判別 001
第1節 オリジナル盤 001
第2節 オリジナルと判別記号
第3節 レビューのフォーマット
  (1) 市場規模 014
  (2) 音楽(歴史)的価値 015
  (3) 音質 015
  (4) オリジナル判別記号 017

第2章 ビートルズ神話――英オリジナルのケース
  (1) Please Please Me 20
  (2) With the Beatles 26
  (3) A Hard Days Night 31
  (4) Beatles for Sale 31
  (5) Help! 33
  (6) Rubber Soul 33
  (7) Revolver 36
  (8) A Collection of Beatles Oldies 37
  (9) SGT Pepper's Lonely Hearts Club Band 38
  (10) Magical Mystery Tour 40
  (11) Yellow Submarine 40
  (12) The Beatles (White Album) 41
  (13) Abbey Road 43
  (14) Let it Be 44
  (15) エクスポート盤 45

第3章 マエストロ神話
第1節フルトヴェングラー神話
第2節カラヤン神話

第4章 英レーベル神話
第1節 コロンビア神話
第2節 英HMV神話
第3節 英デッカ神話

第5章 英レーベル神話の批判
第1節 Tas神話
第2節 音質論
  (1) 高音質の条件(サルヴァトーレ) 95
  (2) ソリューション 097
  (3) アンビエンス 099
  (4) レーベル神話の批判 103
  (5) 英ブランドレーベルの価値 105
  (6) ポピュラー音楽のオリジナル 108

第6章 Holy Grailと顕示的消費の所説
第1節 Holy Grail 113
  (1) 稀少性 113
  (2)自我関与 120
  (3) 顕示性 122
  (4) オークション 125
第2節 顕示的消費の所説 127
  (1) 中世〜近世西欧の香修的消費とその分析 129
  (2) レーの香修消費論 131
  (3) 新古典派経済学と顕示的消費 132
  (4) ヴェブレン「有閑階級の理論」 134
  (5) 戦後アメリカの消費拡大と消費者ニーズ論 136
  (6) ボードリヤールの消費社会論 137
  (7) Holy Grailと顕示的消費の所説 140
  (8) 顕示的消費の批判 143
第3節 仏教的省察 145
  (1) 仏教アプローチ 145
  (2) 仏教による「欲」の説明 147
  (3) 仏教による「怒り」の説明 150
  (4) 顕示的消費と「痴」「慢」「渇愛」 152
  (5) 仏教的解決――「小欲知足」 155
第4節 「音楽鑑賞」神話――トルストイ『芸術とは何か』 157
  (1) 芸術批判――音楽家の「欲」「怒り」 157
  (2) ワーグナー批判――芸術の「真贋」 163
  (3) ウェーバーと小林秀雄 168

結び [177-178]
索引 [179-184]

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 760.音楽
感想投稿日 : 2022年3月17日
読了日 : 2022年3月10日
本棚登録日 : 2022年3月10日

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