モダンタイムス(下) (講談社文庫)

3.69
  • (648)
  • (1590)
  • (1236)
  • (238)
  • (36)
本棚登録 : 11609
レビュー : 973
著者 :
マリモさん ミステリー   読み終わった 

浮気をしたら、妻の依頼した拷問のお兄さんがやってくる…。そんな恐妻家のシステムエンジニアは、謎の失踪をとげた先輩五反田の後をついで、発注元すらわからない出会い系サイトの仕様変更を請け負うことになる。
そのサイトのシステムの謎を解析するうち、複数の検索ワードに行き当たる。その検索ワードを調べた者に、次々と不幸が襲っているのだ。

伊坂ファンは多いけれど、私はこれまでぴったり嵌ったことがなくて、周囲の評価や人気とのギャップに、何で私にはわからないのだろうとこっそり「伊坂コンプレックス」だった。
この本は、その伊坂コンプレックスを払拭できたかも?と思わせてくれた。これから好きになるかも、みたいな仄かな予感!わくわく。(と書くと恋みたい)
ぽんぽんとテンポのよい会話は気持ちよく、大きなうねりの中で翻弄されながら少しずつ真実に近づいていく流れが絶妙で、面白かった。

非現実的な出来事が次々と起こり、妙に飄々とした主人公がなぜかそれに巻き込まれていく…という流れは伊坂流そのものと思う(というほど伊坂さん読んでないけど、たぶん)。
私がこのモダンタイムスにしっくりきたのは、伊坂さんがあとがきでも「この作品にとって重要なのは、事件の真相を隠そうとする力、その力に翻弄されることで、真相そのものではない」と書いているように、メッセージ性がはっきりしていたからだろう。

“誰それが悪いっていうんじゃなくてな、『そういうことになっている』としか言いようがない出来事であふれている。”
“アリは賢くないが、コロニーは賢い”
“真実は、姿を変える。見えているものがすべて本物とは限らない。”

そして、ツボだったのは奥さんですね。
いかに妻に気を遣い恐れているかを話す上司たちの話を聞き、「恐妻家にプロアマがあるとすれば、あなたがたはアマもアマ、アマ中のアマだ」と内心毒づく夫(主人公)が面白い。
世の中で一番嫌いなのは浮気。何事にも動じず潔く、ありえない破天荒っぷり。こんなスーパー奥さんになってみたい(笑)。
“「人間は大きな目的のために生きてるんじゃないの。小さな目的のために,行動したら?」”
ここぞというところの台詞がかっこいい。
最初は単なる恐ろしいだけの奥さんだったのが、事件に巻き込まれていくうち、主人公の奥さんを見る目がどんどん変わっていくのもいいなぁと思った。

あとがきで、作中の作家を「井坂好太郎」としたのは、単純に小説家の名前を考えるのが面倒だったから自分の筆名を変化させただけだとある。
でも、作中の「井坂好太郎」の台詞は、伊坂さんの気持ちが多分に込められていたと思う。

「小説は、一人一人の人間の身体に沁みていくだけだ。」「小説で世界なんて変えられねえ。逆転の発想だ。届くかも。どこかの誰か、ひとり」

レビュー投稿日
2012年10月30日
読了日
2012年10月29日
本棚登録日
2012年10月23日
4
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『モダンタイムス(下) (講談社文庫)』のレビューをもっとみる

『モダンタイムス(下) (講談社文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

『モダンタイムス(下) (講談社文庫)』にマリモさんがつけたタグ

いいね!してくれた人

ツイートする