百瀬、こっちを向いて。

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レビュー : 396
著者 :
マリモさん 青春 学生時代   読み終わった 

学校では地味で目立たない生徒を主人公とした、青春×恋愛の4編。
ちょっと突飛な設定に、中田さん的「甘さ」と「苦さ」の絶妙な塩梅の味付け、隠し味はちょっとしたドンデン返し。
くすりと笑ったり、キュンとしたり、びっくりしたり。
作中の季節は色々でも、読後感は、咲きかけの花の香りを運んでくれる、爽やかな風が気持ちいい春そのものなのでした。

表題作、『百瀬、こっちを向いて』
恩のある先輩に頼まれて、先輩の彼女をだますため、先輩の二股相手である百瀬と付き合っているふりをすることになる僕。
周囲からは浮いているカップルとなった二人、なんで「僕」と付き合っているのと百瀬が友人から聞かれたときのエピソードが何となく好きだった。
“「しょうがないから、ナメクジみたいなところがいい、ってこたえておいたよ」
「あ、そう。ひどいね、きみ」
「ほめ言葉だよ」
「どこが。かるく死にたくなったよ」”

『なみうちぎわ』
家庭教師先の教え子、小太郎を助けるために海に飛び込み、反対に溺れて意識の戻らないまま寝たきりとなる。5年後、奇跡的に回復し気づいたときには、小太郎は17歳となっていた。小太郎はある罪の意識を抱えたまま、姫子を見守り続けていたのだ…。

これは一番乙一さんらしいなと思った。
5年間の家族の苦労と小太郎の苦悩を思うと胸が痛むけれど、その間毎日、眠れる森の「姫子」が目覚めるのを待ち続けた小太郎くんが健気で愛おしくなる。
目覚めたときに、かっこよく成長した小太郎くんと再会するなんて、何か少女漫画みたいだ。二人の未来に幸あれ。

『キャベツ畑に彼の声』
テープ起こしのバイトで、人気の国語教師・本田先生と、新進気鋭の覆面作家・北川誠二が同一人物であることを知る久里子。
先生には美人の彼女がいるみたいだけれど、先生に対する想いは、だんだんキャベツ畑のキャベツのように膨らんで、出荷しないといけないほど大きくなっていく。

おとなしくて控え目な主人公。気持ちが膨らんでいく様子がとても可愛い。
ドンデン返しはちょっと唐突な感じがあったけれど、先生とのやりとりはどれもさりげなくてよかった。
先生から勧められた本が「初恋」っていうのも、ちょっと気のきいた小道具だなぁ。

『小梅が通る』
読者モデルをしていたほどの美少女で、周りの賛美も優しさも当たり前のものとして享受していた柚木。
中学生のとき、親友だと思っていた子に言われた言葉がトラウマとなり、素顔を出すことを避け、度のきついメガネ、ホクロメイク、下膨れの頬、だぶっとした制服…、自称「ブスメイク」をして高校に通う。
しかし、ひょんなところでクラスメイトに素顔を見られ、自分は柚木の妹の小梅だと嘘をつき、嘘をそのまま押し通すことになってしまう。

4編の中でも一番好き。読んでる間中、ニマニマがとまらなかった。
望んでも望まなくても、目立ち、ちやほやされ、やっかまれることになる美人の人知れぬ孤独と葛藤。
先日読んだ、綿矢りさの「亜美ちゃんは美人」の亜美ちゃんを思いだした。
ブスメイクをするようになった柚木は、
わたしが変わったのではない、周囲のひとが変わるのだ…
というけれど、周囲のひと、とりわけ中高の頃の男子は本当に酷なもので。
「みんなが好きなのはあなたの顔だけ」という友人の言葉が呪いとなって、不細工だと対応を変える周囲のひとたちに、自分は顔だけだと傷つきながら、頑なにブスメイクを通していた柚木。
そんな柚木が、素顔になって自分が小梅だと告げに行く場面では胸が熱くなり、さらに告白を聞いて柚木と一緒に顔を赤くしてしまう、とりわけ甘酸っぱい最終話でした。

レビュー投稿日
2013年1月18日
読了日
2013年1月17日
本棚登録日
2013年1月17日
5
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