地球っこさんのレビューから。自分では出会えなかった本だと思いました。ご紹介ありがとうございます。
アルタイってどこだろう?
まずはそこからで、素朴な中国の地方を描いた作品で思い出したのが、チャン・ツィイーの主演作である『初恋のきた道』の厳しい自然の情景だったのだけど、彼女は遊牧民ではないし、場所も全然違っていた。
舞台となる新疆ウイグル地方北部のアルタイ地方は、カザフ族が人口の半分を占め、宗教や言葉の違う人たちが暮らす。
作者の李娟は、母(と妹?と祖母?…登場人物も流動的)と一緒に、アルタイの遊牧地域で、半流動的な雑貨店兼裁縫店を開く。
この本では1998年から2003年、政府の定住政策が進む中、伝統的な遊牧生活を送る羊の群れを追う遊牧民にあわせて店を移動させ、カザフ族の冬の定住地区、ゴビ砂漠のウルングル川一帯に定住する頃までの日々の暮らし、そこで暮らす人々のことが綴られている。
地図をつけなかったのは、意図的なのだろう。冬は零下30度にも下がるような厳しい寒さ。遊牧民は、国境も政府もなかった何千年も前から脈々と、季節ごとに家と家畜と共に移動し、星を見て友達のところに遊びに行っていたのだ。
厳しい環境の中でもたくましく生きる子供達の姿。
玩具がなくてもあちこち走り回って遊び、
一本の長い木の棒と系で器用に魚釣りをし、
少額のお小遣いを手に長い時間かけておやつを吟味し、
すぐにこわれる手押し車を修理しながら薪拾いをし、
編みの荒い不良品の布で作られた上着を嬉しそうに着続ける。
穀物を背負い、手に小さな柳の枝を持ち、山の中の40キロ以上の誰も通らないような小道を通り、徒歩でたった一人、三頭の牛を麓の家へと追って行った8歳の男の子がいた。
作者は小さな子がこんな仕事をするなんてとびっくりしながらも、最後にはこう納得する。
"私が目の当たり当たりにしているのは古くからの、数千年経ってもまったく問題が起きてこなかった生活様式であり、その様式とそれを取り巻く生存環境は平等に共存していて密接に繋がって切り離すことができないくらい自然になっている。その中で成長していく子供たちは、強く、純粋で、あたたかく、静かで、簡単に満足を覚え、容易に幸せになれるのだと私は思った。それもまた自然なのだ"
ここに暮らしていたアルタイの人たちは今どうしているのだろうと、思わずにはいられない。
- 感想投稿日 : 2022年4月2日
- 読了日 : 2022年4月1日
- 本棚登録日 : 2022年4月1日
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