必要に迫られて読んだが、とっつきやすくてホッとした。
(岩波の同書も入手したのでいずれ読み比べます)
プーシキンはおそらく初めて読んだ。
ロシア文学自体、あまり熱心に読んでこなかったジャンル。
今後も長編には手を出せないと思うが、米原万里のおかげでロシア文学のイメージはかなり向上した。
ロシア文学といえば、雪と血と酒とカネのイメージで、本作もだいたいそんな感じだ。
粗筋のわりには、読後にはなぜか悲壮さが薄まっているのがプーシキンの手腕かもしれない。歌や恋や友情、忠義がうまく入り込むからだろうか。
前半は危なっかしいおぼっちゃまの任地への旅で、大丈夫かこれ、の連続。
話そのものはスルスル進む。章のはじめの歌の引用が効果的。
マリヤの登場でいきなりロマンスに舵を切ったと思ったら、プガチョフの乱で物語は急転する。
容赦なく激しいバイオレンスと、主人公サイドの綱渡りが続く。
全編を通して、じいや役がいいキャラクターで気に入った。
お金にうるさく、主人公のことを何より気にかけている。
隻眼の老軍人もいい。実質、要塞のボスだった老女もいい。(だからこそ、淡々と処理されるあのシーンは辛かった。)
プガチョフも非常に筋が通っていて、清々しいほど。最終章での彼もヒーロー役の最期のよう。
この性格は、昨年よく読んだ海賊ものでみかけるアウトローたちに通じるものがあった。(雪のせいで外界と閉ざされやすい状況になるのか、力関係が一瞬でひっくり返る怖さがある。)
アウトローたちは、力に恃むところがある一方で、義理堅く、信心深く、純粋な子供のようでもある。
簡単に裏切るものも多い一方で、内通者が二重スパイのようになり、マリヤの手紙を届けてくれるなど、意外といいやつだったする。
それにしても、主人公の流れを見て、行きずりの人にも親切にしておいたほうがいい、とよく分かった笑。
光文社では新訳で噛み砕かれていて読みやすい上に、注釈が親切でありがたかった。
ロシアものといえば、名前がわかりにくい、名前と愛称の離れっぷりも読みづらいという印象があったが、この本ではそのあたりを丁寧に説明してくれた。
プガチョフの乱は、この作品が書かれた時期より50年ほど前の史実で、プーシキンはこまかく取材をして書いてきたらしい。30代で決闘で死んだプーシキンにはもちろん生まれる前の世界だ。プガチョフの乱をメインにしたプーシキンの史記もあるとはじめて知った。
今で言えば50年前は、キューバ危機とか万博、オイルショックくらいか。十分昔だと思える。
本書はこまかい注釈のほか、巻末の解説も楽しい。
解説にあるように、中国作品ぽさが三割、ヨーロッパ作品の味が七割、と大昔の翻訳者が言うように、ところどころ、三国志でも読んでいる気がした。そこを生かした大昔の翻訳ネームが苦心の跡が見えて興味深い。
- 感想投稿日 : 2021年7月10日
- 読了日 : 2021年7月10日
- 本棚登録日 : 2021年7月10日
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