The Remains of the Day (Vintage International)

著者 :
  • Vintage (1990年9月12日発売)
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感想 : 8

先日、分子生物学者の福岡先生がKazuo Ishiguroの人生をたどる番組に出演されており、その番組の内容に惹かれて本書を購入した。これまでKazuo Ishiguroの作品は読んだことがなかったが、ブッカー賞を受賞した本作であり、また職場の先輩も強く推薦されておられたことから、読んでみることにした。

 ハリウッド映画に出てくるようなストーリー展開の激しいアメリカ的な作品に慣れていた私にとって、戦時中のイギリスを描いた彼の「文学的な」作品は、読みこなすのに多少骨が折れた。一つの文の中に修飾節や句が多々入り込み、またイギリス特有の控えめな表現なのだろうか、それをあえて婉曲的に伝えようと謙遜するフレーズも含まれ、特に中盤の内容理解は正直なかなかうまくいかなかった。しかし音読してみると不思議と意味は完全にわからないまでも、Kazuo Ishiguroのつむぎだす美しい英文が一つの音楽のように頭に入ってくる。

 極力感情表現を抑えた文章で描かれる執事Stevensの描写に、仕事へのプロ意識、父への思い、数十年使えたDarlington卿への敬慕、政治の舞台にひそかに関わっている自負、Ms Kentonに対するやさしさが行間から伝わってくる。またイギリス西部へのたびの途中に広がるイギリスの地方の美しさが、文体から見事に浮かび上がってくる。旅の途中、執事Stevensの胸に去来するある種の後悔や、それでもそこにdignityを見出してきた彼の人生の重みが、彼自身の回想の中に語られる。

 Kazuo Ishiguroは、「記憶」というものを一つのテーマにこの作品を書き上げたというが、記憶を回想するプロセスの中で、人生の様々な場面が思い出され、そこに伴う感情が、冷静に淡々と抑制の効いた語りで紡がれていく、すばらしい文学作品であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ペーパーバック
感想投稿日 : 2011年7月31日
読了日 : 2011年5月7日
本棚登録日 : 2011年7月31日

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