これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

  • 早川書房 (2010年5月22日発売)
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NHKで放送されていた番組を一冊の本にしたもの。

政治学者マイケル・サンデルの「正義」についての考え方が垣間見える。ハーバード大学でホールを満員にする授業というだけあって、サンデル教授のトークの力は強力で、普通の大学生では小手先を捻るようなものだろうと思う。日本の大学ではなかなか「正義」のような大上段に構えた概念の講義はなかったし、ハーバードの学生の思考も僕らとそんなに変わりないので、これがNHKで大変好評だったというのも頷ける。


表層的なところで「5人を殺すか、1人を犠牲にするか」問題を考えるのも面白いけれども、やはりこの授業はサンデル教授が学生たちの意見を組み上げて的確な議論をすることで、ルールの形成を模擬体験させているところにポイントがあると思う。

5人殺すか、1人を犠牲にするかという議論に確たる回答はないと分かった上で、それでも合意形成を図ろうとするのが政治だし、サンデルが政治哲学の教授であるというのは、そういうことを考えることが重要だ、という土台があるのだと思う。

古代から現代までの正義に対する代表的な考え方を踏まえつつ、感情によらない合意形成を求めるというのは、西欧では徹底される理屈で、さらには東洋が徹底的に敗れた理屈でもある。簡単な例を聴いて「こうすればいいんじゃね?」と答えを探すのではなく、右か左かしかないときにどう舵を切るべきかを問うている本だと思う。

それを知らない政治家が海外に出ても無視されるか蜂の巣にされるだけだよね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 学術書
感想投稿日 : 2012年5月11日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年5月11日

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