ありきたりの常識や紋切り型の考え方にとらわれずに物事を考えていく方法――。これが著者のいう「知的複眼思考法」である。この思考法を身に付けるための具体的なハウツーが紹介されている。例えば、「著者と対等な関係に立つ」、「本を批判的に読む」、「代案を出す」など。著者の言い分や提示されているデータにまず疑いを持つこと、そして自分自身で反論をすることが、創造的な思考へと繋がる。そのためには「なぜ」と問いを少しずつずらしてみることが重要であり、結果として複数の視点、つまり複眼の獲得へと結びつくということが、著者が最も主張したい点であったと思う。コラムとして紹介されていたバルトの神話作用が特に印象に残った。バルトは、「神話はものごとに、説明の明晰さではなく確認の明晰さを与える」と述べており、十分に検証しなくても世の中に通用するものの見方が「神話」であると言っている。現代の「常識」もそうだろう。
本著は、「速読」とは反対の、ゆっくりと考えながら本を読むことを勧める内容と言える。このことは読書のみならず、この情報過多な時代において、そのまま情報を鵜呑みするのではなく、一歩立ち止まることの重要性を説いている。常識として扱われているが、その常識に「なぜ」と疑問を持つことが大事なわけだ。「解き方を覚える」、「答えを覚える」といった記憶に頼る勉強法が蔓延している昨今だが、物事を考えること、そして常識にとらわれてはいけないということを改めて教えられた。「頭が良い」ということは、創造的な思考をするということであり、常識にとらわれていてはいけないということである。ただ、実際に身に付けるには相当のトレーニングが必要だと思う。また、本著はトレーニング用の例文に紙面を多く割かれていたので、ハウツー本なのかトレーニング本なのか、ややどっちつかずの印象も受けた。
- 感想投稿日 : 2014年2月2日
- 読了日 : 2014年1月30日
- 本棚登録日 : 2014年1月26日
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