『雑貨の終わり』三品輝起
装丁のこだわり、手におさまる判型、表紙幅見返しの深い緑、そして茶と青の花布。
本が雑貨のように素晴らしい、といっても三品さんには褒め言葉にはならない。
雑貨の沼に入ってみた店主、その底なしのドロドロとした不可解さを巡る随想。
「人々が雑貨と思えば雑貨。そう思うか思わないかを左右するのが、雑貨感覚である」という著者の言葉。
その通りと思いつつ、定義が自由だったり相手に委ねることと暗さも感じる。
雑貨を買うことは、モノ消費というよりコト消費なのかもしれない。
ブランド品を買うこととどう違うのだろう。コト消費は体験を買う、つまり体験になるということなのかもしれないけど、そこには質のジャンプがあると思う。
買うときに商品に込められたストーリーと、購入後自分たちでDIYされていく思い出は全く違う。でも買わせたい側は、そこをないまぜにしながら、あたかも買うことが思い出になるかのように思わせる。買った後に思い出が残せるのは、それについて語り合ったり、それを買った旅先の思い出ではないだろうか。
無印良品のエッセイは、ブランディングとして見た時のMUJIの成功の一方で感じるものを描いている。
薄気味悪い巨大な雨雲のような部分。あの「ふつうの良さ」をみせる鶴の恩返しの引き戸の奥にあるそうなものを。無印にしておこう、という会話を年に何度かする。そこが本当の無印なんだとおもう。無印がなかったらニトリにしておこうか、となるだけなんだ。
ポートランドの論考は、他の都市の話にワクワクする自分と重ねて読んだ。
「多くの場合、都多様性に開かれた都市について語るということは、その人が見たいものをその都市の中に見つけることだ。」
都市のストーリーが好きなのは見たいものを見せてくれるからだ。ぼくはポートランドに行ったことがない。でも興味があっていつか行きたいと思ってる。武邑光裕さんの『ベルリン・都市・未来』で読んだベルリンにも行きたい。でも行く頃には、ほんで切り取られたシーンはないかもしれない。
たしかに想像できる吉祥寺、代官山、下北沢と大なり小なりといったところか。
都市も雑貨なら、ホテルの章もそうだ。
でも三品さんがそのホテルを想い出すのは、内装や食事のことというよりも父親の明かさないコトやある夜の鳩の群れだったりする。
ぼくらは雑貨の終わりを見ないように、隠しながら、生活をしている。終わらせることは難しいけど、終わりを語るとどこか安堵する。
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2020年11月11日
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人新世の「資本論」 (集英社新書)
- 斎藤幸平
- 集英社 / 2020年9月17日発売
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『人新世の「資本論」』斎藤幸平
この硬い単語が並ぶ新書が6万部売れているらしい。もちろんかなり噛み砕いて書かれている。
資本論やマルクスを扱った本、といっても環境問題を持続可能な社会を如何につくっていくかというさけられない問題について考えたい人が多いからだと思う。
「SDGsは大衆のアヘンである」という始まりは、今の社会への闘争宣言でもある。
扱う問題は、まさに根本的な問題。格差は広がる、環境問題は深刻化する、その根源は資本を如何に増やすかに集中する資本主義。
心身をヒリヒリさせながら、たくさんのものを生産したり、サービスを考え出したりする。
でも商品は機能が良いだけでは売れないし、サービスも価格競争になっていく。そんな中でモノからコトへ、ストーリー、ブランディング、世界観。。。
新しいこと付加価値をつけるべく、いろいろな方法が現れる。でも、それってモノが溢れる中でいかに希少性をアピールして目立たせて、という話で大量生産→大量消費の構造をより強化している。
でもさ、と言いにくい。これは日本のみならず近代化した世界に蔓延した空気、というよりも常識。いや、刷り込みなのかもしれないけれど。。。
そんな多くの人が心身に不調をきたしても避けられない、代替案が見当たらない問題に斎藤さんは踏み込んでいく。
資本主義をどうしていくのか、他に方法はないの、それが世界の最大の問題だ。このGDP、利益、売上、株価など軸にしながら、賃金や貧困、環境問題を後回しにしている社会。
『ブルシット・ジョブ』ディビッド・グレーバーについても言及しているように、過剰生産、過剰サービスの社会では管理のための管理者のような使用価値としてはあまり意味のない仕事が多く存在する。この短期の効率を重視し、長いスパンでの非合理な世界を修正していくために以下の5つを掲げていた。
1. 使用価値経済への転換
2. 労働時間の短縮
3. 画一的な分業の廃止
4. 生産過程の民主化
5. エッセンシャル・ワークの重視
「本源的蓄積」というキーワードも気になった。個人個人がコミュニティの中で持っていた、いわばセイフティネットのことだ。
資本主義はそれ解体していって、人々は地に足をつけながら生きることができずアノミーな存在になってしまった。
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2020年11月8日
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デンマークのスマートシティ: データを活用した人間中心の都市づくり
- 中島健祐
- 学芸出版社 / 2019年12月5日発売
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『デンマークのスマートシティ ー データを活用した人間中心の都市づくり』
都市に関する本や雑誌が好きです。よいヒントやアイデアに溢れているから。
日本でできないのは結局のところ、価値観の問題なのだと思う。
既存のシステムや価値観を捨てられない。変化を恐れる社会、というより変化しない方が都合の良い人たちが中枢を占めているということなのだと思う。
若い人も減る一方だか世代の移行も起きにくい。
高齢者は尊敬されないとか、女性が強くなる、といったことが受け入れられないのだと思う。
これは日本のムラ社会の悪い部分が阻んでいると思う。
高い税率が政治参加を促す、とあるのは肝だと思った。日本はアメリカ的な低負担低福祉に進もうとしている。人気取りのために税金を下げたりする。
政府も国民も税金が低い分、お互いに責任を軽減しようとするから民主主義が成り立たない。
税負担が多くなったら、その分税金の使い道に透明性を求めたら、政治への関心政府への関心も高くなるのではないかな。
北欧は税金が高いことがよく言われる。けれど、それらがどのように使われるのかそこまで考えて初めて高いか安いかが判断できるのではないかな。
最後にイノベーションのこと。エコロジーやサスティナブルな創造が求められるときに、企業はインフラの問題でお手上げになってしまう。
リペア、リユース、リサイクルなどは企業がそれぞれにサービスを組むのは難しい。インフラとして効率の良い仕組みを作らないと促進されないと思う。
大量生産→大量廃棄から抜け出すためにも、行政と企業と市民の連携が起きなければ持続可能な社会の達成はできない。
変化のために何を優先して何を捨てなければならないか。それを考えて実行しなければいけないと切に感じる。
革命のようなガラガラポンをする必要はない。少しづつの変化が良い社会を作っていくと思う。
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2020年11月8日
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反逆の神話:カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか
- ジョセフ・ヒース
- NTT出版 / 2014年9月24日発売
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『反逆の神話ーカウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか』
ジョセフ・ヒース、アンドルー・ポター著、栗原百代訳
タイトルの通り、いかにカウンターカルチャーがクールなものとして消費文化に取り込まれていったか書かれている。
といっても反逆精神でワイワイ騒ぐことが意味がないと言いたいわけでもない。彼は議論の進め方を示していきたいのだと思う。
それはその後の著書『啓蒙思想2.0』を読むとよくわかる。建設的な議論、本当の意味での保守主義を広めていきたいと考えている。
カウンターカルチャー、アナキズムとか革命的な考え方がまるまるよくないと言っているわけではない。新しい考え方や文化がないと進歩は望めない。創造は模倣から生まれるというように、大きな流れは小さな変化の積み重ねだから。
彼が一番危険視しているのは、カウンターの考え方について、期待を寄せすぎたり、ユートピアを求めること。
リベラルな人たちが求める理想的な社会も、ドナルド・トランプを選択するような人たちも今をガラリと変えればどうにかなるという幻想に取り憑かれているともいえる。
冷静な議論で達観した視点だから、タイトルよりは刺激はないかもしれない。カウンターでありたい人にとってはがガッカリさせられるかもしれない。けれど、こういう議論の仕方こそ実践的(プラグマティック)なんだと思う。
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2020年11月6日
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アフターデジタル2 UXと自由
- 藤井保文
- 日経BP / 2020年7月23日発売
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『アフターデジタル2』藤井保文・著/日経BP社
OMO[Online Merges with Offline]がキーワード。
B2Cの場合、カフェなどであれば、生活の一部を提供できる。自動車は給油や給電やメンテナンスが必要だから定期的な接点がある。そうであれば継続的なサービスを提供しやすいと思う。
アパレルや趣味的なものはどうだろうか。何度も買わないもの、たまにしか必要がないものも多い。それでも、クリーニングのような業種を取り込んで一貫したサービスとして繋がなければ生き残れないのかもしれない。リペアやリフォームもしかり。
一貫したサービスや体験を提供していくには、プラットフォームに乗っかるか、提携や合併かないのだろうか。大きな流れのなかで存在感を示すことはできないのか。中途半端なサイズの企業は厳しそうだ。ローカルでユニークなこともできないだろうし。
話はズレるけど、そんな中で世界観をつくったD2Cはそんな流れに呑まれない戦略のように思われてきた。でも、Everlaneで起きたような問題、トップダウンで世界観をつくる方法に綻びが出ているようにも思える。ステークホルダーとの関係性、経営層と顧客との間にいる従業員たちのと関係性も難しそうだ。
かといってAmazonのようにどんどん不便さを潰していくようなことでしか方法がないとは思いたくない。でもきっと抗えないだろう。
小さくてローカルでユニークな存在がネットワークのように存在することはできないのかな。それは国や企業に求めても難しそうだ。ポートランドやベルリンのような街にヒントを求める方がいいのだろうか。
2020年11月3日
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ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論
- デヴィッド・グレーバー
- 岩波書店 / 2020年7月30日発売
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『ブルシット・ジョブ ー クソどうでもいい仕事の理論』デヴィッド・グレーバー
酒井隆史 芳賀達彦 森田和樹・訳 岩波書店
『官僚制のユートピア』で官僚組織が想像力が一部の人間にもたらすユートピアと、そこから疎外される人々を描いた。
現代の社会は官僚機構そのものであって、そこで生み出される不条理は構造的な要因だった。
その後に書かれた本書では、そんな不条理な仕事について分析し、まずはその実態をそして精神的な影響を、最後には人々はなぜそれに従事してしまうのかを著している。
「シット・ジョブ」と「ブルシット・ジョブ」がある。
前者は、はその仕事の内容に見合った報酬や待遇の得られない仕事で、介護や医療などエッセンシャルワーカーと言われる人々の多くもそうが含まれる。
後者は、本来重要な仕事をシットジョブにおとしめたり、新たなブルシット・ジョブを生み出す仕事になる。以下の通り。
■ブルシット・ジョブの主要5類型
1. 取り巻き・・・だれかを偉そうにみせたり、偉そうな気分を味わわせたりするためだけに存在している仕事
2. 脅し屋・・・雇用主のために他人を脅したり欺いたりする要素をもち、そのことに意味が感じられない仕事
3. 尻ぬぐい・・・組織のなかの存在してはならない血管を取り繕うためにだけ存在している仕事
4. 書類穴埋め人・・・組織が実際にはやっていないことを、やっていると主張するために存在している仕事
5. タスクマスター・・・他人に仕事を割り当てるためだけに存在し、ブルシット・ジョブをつくりだす仕事
なぜブルシット・ジョブが増殖しているのかといえば、誰もが薄々と感じているの通り。
この仕事にどんな意味があるのだろう?ということを問い続けてみると自ずと見えてくる。管理のための管理や、売れにくいものを売ったり、中間マージンを得るための仕事だったりそんな実質的に何も生産されない、誰のためにもならない仕事ばかりが増殖しているからだ。稼ぎたい、稼がなければならないということにしか意義はない仕事に溢れてしまっている。
第六章はその根本の問題を解いていた。こんなクソ仕事を生み出す価値観はなんなのか、人類学者グレーバーらしい分析が展開されている。われわれの価値や生産についてのそもそもへと遡っていく。
職業と報酬とそれらが社会的価値にもたらすものを箇条書きにしている。銀行家が年収約500万ポンドで1ポンド稼ぐごとに7ポンドの社会的価値を破壊、一方で年収11500ポンドの保育士は1ポンド受け取るごとに推定7ポンドの社会的価値を算出している。なんでこんなことが起きるのか。
「労働に対するわたしたちの神学的起源について」というパートで、働くことに対して受け入れざるを得ないと感じていることを解体している。ひとつは仕事が苦難であることと、もうひとつは仕事は仕事以上の何かを達成するため、という定義めいたもののことだ。彼は、その何かを創造する、生産するということは家父長的な秩序が生み出した神学的なものにすぎないという。
本来の生産は女性が子供を産み命を引き継いでいくことなののに対して、男性はそれに劣等感を抱いたのか、同等の立場を得ようと外部での生産に力を入れた。そこに資本主義的な価値観が重なっていく。動機がそれなのなら、その行く末は当然今の社会になっていく。ひとがひとを助けたり、育てることは仕事とみなされなくなる。
「究極的に人間を動機づける要素は富、権力、安逸、快楽の追求であったし、そうでなければならないという信念は自己犠牲としての仕事、すなわちまさに惨めさとサディズム、空虚さ、絶望の場所であるがゆえにこそ価値あるものである仕事という教義によってつねに補完されてきたし、つねに補完されねばなかった。」
具体的な政策を提案することがない彼には珍しくベーシックイ...
2020年11月3日
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アフターデジタル - オフラインのない時代に生き残る
- 藤井保文
- 日経BP / 2019年3月23日発売
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『アフターデジタル』藤井保文・尾原和啓著/日経BP社
中国のオンとオフラインの融合はすごいと思う。数年前でもQR決済を持たないビジネストラベラーの私は面倒くさい人と思われていたのがわかった。
すごいなとヘンテコだなとが共存しているデジタル社会だった。
デジタルが生活に密着してくると進化を肌で感じる。会社の業務がいくらデジタルで行われても、それは当たり前の出来事としか思わない。
2020年11月3日
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タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源
- ピーター・ゴドフリー=スミス
- みすず書房 / 2018年11月17日発売
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『タコの心身問題 - 頭足類から考える意識の起源』
ピーター・ゴドフリー・スミス 夏目大 訳 みすず書房
I felt the ability that far future octopus have something language and generate like police.
違った視点を求めて購入したんだと思う。人間に関する本ばかり読んでいてもひろがない気がしていた。それから忘れていて、Netflixのオススメで『オクトパスの神秘 海の賢者は語る』を観た。身体を周囲に擬態させたり、帆を開くようにして身体を大きく見せたり、その身体で獲物を一気に包み込んだり、行動を改善していく頭の良さ。食べるばかりだったけど、これほど魅力的な生き物だとは知らなかった。
タコの心身問題という邦題だけど、意識の起源を探ることが主題だ。進化の系統樹をみると、6万年前に人と頭足類とは分かれている。魚だった頃より前になる。人間も魚も脊椎動物で、軟体の頭足類にはそれがない。でもタコにも脳があり神経のネットワークをもっている。
脊椎動物もネットワークになっていて各機関が独自に動くこともあるけど、脳の中央集権的なところが大きい。一方のタコは足と脳はもっと独立しているようなのだ。ネットワークの複雑さを制御していて、そいの複雑さがタコの脳を発達させている。このような複雑さを成立させるために、発達していくというのは社会のコミュニケーションと相似ではないか。
単細胞生物が周囲の変化をかんじとるところから、コミュニケーションは始まっていた。それ以来、周囲の変化より感じとる仕組みを体内にいくつも取り込みながら生物は進化していった。でも、ずっと言葉は不在だった。著者はタコを通して言葉と心の関係を教えてくれる。言葉がないとコミュニケーションを取れないのではない。たしかに言葉はコミューニケーションの手段として進化した。でもそれは、そのままうちなる声として取り込まれていった。それが心を形成していったのだった。
最後の章は、パラレルワールドをみるようだった。オクトポリス、タコの都市についての興味深い論考だ。著者は海底のある一角にできたその都市にすいて仮説を述べている。なぜその都市ができたのか。都市といっても、貝殻のベッドがひかれてたくさんのタコが巣を設けているに過ぎない。でももしかすると数万年を経たのちに言葉のようなものをもつタコの末裔が存在するかもしれないと思わせるのだった。
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2020年11月21日
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「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?: 世界を魅了する〈意味〉の戦略的デザイン
- 安西洋之
- 晶文社 / 2020年2月26日発売
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タイトルを見て、スルーしていたのですが安西洋之さんとTakram 渡邊さんのラジオを聴いて読んでみました。
デザインというと、欧米、とくに北欧あたりが例に挙がるけど、いずれも大企業なことが多い。この本は中小企業がデザイン思考を取り入れるための良い指南書だと思います。
中小企業はビジョンやブランドを設定するときにトポス、つまりは場所ならではの意味づけを持たないと、言われがち。決してそればかりはない、と示してくれています。日本人は真面目過ぎるのかも。
2020年4月3日
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ガンディー 平和を紡ぐ人 (岩波新書)
- 竹中千春
- 岩波書店 / 2018年1月20日発売
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温かみのある筆致で人間ガンディーを描く。そうガンディーは、ダメ人間でもあった。だからこそ、共感できるビジョンを築けたのではないか。劣等感を抱えつつ、酷い仕打ちにも遭い、ダラしなさも抱えていたからこそ。
100分de名著のガンディーと合わせて読むと更にガンディーが立体的に見えてくる。
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ベルリン・都市・未来
- 武邑光裕
- 太田出版 / 2018年7月12日発売
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『ベルリン・都市・未来』武邑光裕
2年前に著者・武邑さんとWIRED前編集長・若林恵さんのABCでのトークショーに行った。それまでベルリンがこんなにも面白い都市とは知らなかった。帰りに買って読んだのだった。その時はなんとなく疲れた日々で、今ならまた別の視点で読めるかもしれないと棚から手に取った。
ベルリンについてのエッセイで、ブックデザインが素晴らしい。ブックカバーのイエローにフィルターのかかった写真も、そしてめくるとシルバーのFuturisticな表紙も。文章に差し込まれる写真の多くはモノクロで、時々カラー。映像ドキュメンタリーのような感覚。
そう思わせるのは、リアルとメタファーが入り混じるエッセイだからでもある。メタファーとは違うかもしれない。武邑さんは人間社会と生態系を相似するものと捉えていると思う。とくに蜂は生態系の創発を促す生き物で、人の社会にもそういった存在が必要になる。
ベルリンでイノベーションが起きるのは、生態系のバランスと同様に、多様性や経済がうまく均衡しているからだ。DJ、ハッカー、起業家が集まり、共通語として英語を介し新しいことが始まる。
彼らを典型として、DJ的な人、ハッカー的な人たちが既存の枠組みを再編成することで社会や企業を変化させていくと思う。ドラスティックなトップダウンというよりも、サブな存在が新たな動きをつくる。
ベルリンは社会に生態系があると思った。最先端のデジタル分野だけでなく、DIYの精神があり、農業やグルメなど生活すること全般で経済圏、生活圏が形成されている。グローバリゼーションの分断や分業から自律できる社会があるようだ。家賃が上がりにくい仕組みや、公共住宅であるが故に所有より共有の意識が高いらしい。
タイトルのとおり、未来を感じさせてる。海外の都市に関する情報に触れたとき、その一方で日本はと思わずにいられない。そう思ったとき、東京からは新しいことは生まれなさそうだ。ある程度の規模の地方の都市なら、生態系のつくれる場所なら、何かが起こせるかもしれない。
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2019年3月23日
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〈効果的な利他主義〉宣言! ――慈善活動への科学的アプローチ
- ウィリアム・マッカスキル
- みすず書房 / 2018年11月2日発売
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『ファクトフルネス』にも重なる内容だけれど、自分を自利・利他ともに活かすたの方法が書かれている。人生を俯瞰しながら見るための尺度を与えてくれる実践的な本。思い込んで、自分の想いだけ果たしてももったいない。
2019年3月25日
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言葉の外へ (河出文庫 ほ 3-2)
- 保坂和志
- 河出書房新社 / 2012年12月5日発売
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下記を読んで、積読しているカフカ『城』が読みたくなりました。
カフカは書いている自分と一緒になって書くように読むこと、書くように読むことはなんとスリリングで楽しいことか!ということはまずは知らせてくれる。
カフカは自作を「作品」とか「小説」でなく「ドキュメント」と、たしか呼び、書くことは「書く」でなく「引っ掻く」、引っ掻き傷の引っ掻く、スクラッチといった。
つまりカフカは書いたというより、言葉を鳴らしたり、言葉で鼓動したりした。書いたものは、形跡とか痕跡だった。ダンサーの動きの残像にちかい。
2019年2月7日
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アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート
- 櫛野展正
- イースト・プレス / 2018年9月16日発売
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またメチャクチャな本が発売された。アウトサイダー・キュレーター櫛野展正の単著『アウトサイド・ジャパン』だ。おしゃれなブックデザインにキワキワな135人が収録されている。前著『アウトサイドで生きていく』に続き、感想を述べるのは簡単ではない。それは、ぼくが説明する言葉を持ち合わせていないからだ。しかしながら、臆することなく表現すれば、大半がなんとも奇妙で、不気味としか言いようがない。暴走する妄想、生命感を刻む文様、縄文土器のような形相は、どれも執着と気迫のカタマリだ。
いちど櫛野主催のツアーに参加した。本書でも紹介されている生亀光明のタワーとイラストで埋め尽くされた小林伸一の自宅をじかに見ることができた。一戸建てに押し入るツアー参加者に、ふたりの老人は本当に親切だった。小林においては、ツアー参加者全員にこれでもかというほどの菓子をふるまった。ぼくはこの無垢な老人との距離感に戸惑いながら、帰路についたことを覚えている。
ぼくはこの本を落ち着いて読めない。それは文明や資本主義の色眼鏡でみてしまうからに他ならない。モダンで清潔なものに慣れすぎて、あまりにも人間くさい描写がおどろおどろしく思え、その背後には社会的な死も感じる。たくさんのものを失うかもしれない、身体が不自由になるかもしれない、貧乏になるかもしれない、大切な人を失い孤独になるかもしれない。不安定な世の中で、運よくかろうじて生きているぼくにとって、アウトサイダー達は恐ろしく、向こう側の人達だと思いたいのだ。いっぽうで、ぼくは彼らにすがりつきたい。どこかでそれを感じている。色眼鏡も外したい。だから、このような生き方を知るだけでも救われる。
見方を変えるには、櫛野のいうように何かしらの「欠損」がカギだ。では、「欠損」なくして超えるすべはないのだろうか。ストレンジナイトのように社会的な属性に頼らない役割を演じるのは難易度が高い。でも、遠藤文裕のように半勤半芸なら少しは真似できるかもしれない。「地球上に残されている最後の資源は想像力」とJ・G・バラードがいったように、想像力に何かを掛け合わせれば可能性を広げられるはずだ。この本にはヒントが詰まっている。櫛野が各章で綴ったイントロダクションはマニュアルであり、紹介される135名は実践例なのだ。少なくともぼくにとって、この本は生き方の指南書になりそうだ。
2018年9月17日
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現代社会はどこに向かうか――高原の見晴らしを切り開くこと (岩波新書)
- 見田宗介
- 岩波書店 / 2018年6月21日発売
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『現代社会はどこに向かうか』見田宗介
見田宗介さんの『現代社会の理論』は、消費社会の仕組みをわかりやすく、取り出してれる感銘を受けた本だった。
今回の著書は、2000年以降を描こうとしたようだけど、正直、ロスジェネ世代、団塊ジュニアのわたしには、言い尽くされたことばかりに思えた。
見田さんは1937年生まれ、団塊世代より上の世代だ。その世代にとって、この現状が事件なのかもしれない。でも、われらにとっては当たり前だし、それをメタな視点で解説してくれるわけでもなかった。自分自身や同世代に伝えようとしているのかもしれない。
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人類史のなかの定住革命 (講談社学術文庫)
- 西田正規
- 講談社 / 2007年3月9日発売
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