飼い喰い 三匹の豚とわたし (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2021年2月25日発売)
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本棚登録 : 153
感想 : 12
5

本書は動物愛護・保護的感情論から’肉を食うのを止めよ’とか、道徳的視点から’命の有り難みを噛み締めよ’等といった主張をするものとは全く一線を画する、私の内に強烈な印象を刻み込んだドキュメンタリー。

自ら飼って育てた豚を捌いて食べるなんてかわいそう!信じられない!という気持ちを抱くのは何ら不思議ではないし、そもそも著者の内澤旬子先生だって悪鬼羅刹ではないので屠畜の日が近づくにつれての複雑な心情を明かしているし、当日も「辛かった」(p251)「せつなかった」(p257)という瞬間があった事を綴っている上に「豚がかわいくてしかたがなかった。」(p158)と振り返っている。
ここで大事な事は、そもそも内澤先生は三頭の豚をペットではなくて家畜として飼い始めた訳で、飼い出した理由は世界中の屠畜現場取材の過程に於いて屠畜場に送られてくる家畜達そのものの事についてを知りたいと思った、という学究的関心による。

かわいそう!信じられない!という反射的反応の根拠って相当曖昧で、「何がかわいそうで何がかわいそうでないか」(p155)とか「動物を食べるのがかわいそうで、植物を食べるのがかわいそうではないと断ずる理由はなにか。」(p336)とかって突き詰める程に、結局はそう考えるその人の「単なる習慣」(p158)に過ぎないエゴイスティックな押し付けなんだろうなと私自身の事も含め、改めて考えるきっかけになった。
…と書いていてふと思ったけど、ついさっき豚の生姜焼きを食べたんだよなあ。結局のところそんなもんよ。

ちなみに、三頭の豚が屠られる場面以上に衝撃的だったのは分娩立ち会いのシーン。豚舎に入って「まず目に入ったのは、下半身がちぎれてなくなって死んでいる赤ちゃん豚だった。」「猫が入ってきて食べちゃう(中略)それと初産の母豚は(中略)驚いて噛み殺したり、食べちゃう」(すべてp66)らしい。絶句。まあ猫問題はともかくとしてパンダだって育児放棄するっていうし、母に無償の愛を強要するのはそれこそエゴイスティックな無理強いというものでしょう。

他にも大規模養豚業が孕む問題点だとか持続可能な循環型農場の課題点だとか、様々な知見を得られた一冊でした。


よく学校での「いのちの授業」を巡って意見が割れたりもするけれど、勿論子供達に棍棒やナイフを持たせて手ずから解体にあたらせるのは慎重に為されるべきだが※注※、屠畜業についてをタブーとして隔離・隠蔽するというのは却っていのちや食べ物をぞんざいに見做している事になりはしないだろうか。
少なくとも、私は自分の子供たちには食卓にあがる
食べ物についてを(肉だけじゃなくて)きちんと説明出来るようにありたいと月並みながら思いました。

(訂正・追記)※注※について、屠畜場法第十三条に「何人も、と畜場以外の場所において、食用に供する目的で獣畜をとさつしてはならない。」と定められておりました。けどこれ、教育目的であればOKなのだろうか?

1刷
2022.11.20 訂正・追記

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年11月20日
読了日 : 2022年11月13日
本棚登録日 : 2022年11月14日

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