明暗 (新潮文庫)

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本棚登録 : 1355
レビュー : 107
著者 :
又爺さん 小説   読み終わった 

漱石の未完の大作。

登場人物の各々が、自らを取り巻く他者との関係性の中において「自我」の存在を規定しようとする。

この作品は主人公の視点からのみではなく(というよりは、主人公がいないともいえる)、様々な登場人物の視点から多面的に描かれている。
解説によると、漱石の作品においてそのような書かれ方をしている作品はこれ以外には認められないそうだ。

一応の主人公である津田は、現在の妻お延に満足しているように周囲には見せかけているが、心のうちではかつての清子という女のことを忘れられない。
彼という人間の輪郭は、お延と清子、叔父にあたる藤井夫妻、上司の妻である吉川夫人、妹のお秀、そして友人である小林によって多面的に規定される。

タイトルの「明暗」という言葉は何を示しているのだろうか。
「明」は他者からある人物を見たときに感じるその人間の個性、輪郭、性格、社会的な地位、エゴのようなものであろうか。
一方、「暗」は他者からは決して覗き見ることのできない、当人のみが知ることのできる「本当の部分」「エゴ」「心の奥底に抱える哀しさ」のようなものを表しているのではないかと感じる。
漱石の作品を通して一貫して感じるのが、人間の内面というものを他者が推し量ることの困難性というか、不可能性のようなものである。
そのどうしようもない壁をなんとかしようと試みるのであるが、どうしてもその壁は乗り越えることができない。
そして漱石の作品においてはその壁の持ち主は「女性」であることが多いのである。
今回の作品ではその壁の持ち主が清子であり、その対極にいるのがお延である。
つまり清子が「暗」であり、お延が「明」なのである。

人間の内面のダイナミズムを絶妙な文体を以て描き出す、漱石ならではの作品。

レビュー投稿日
2011年2月1日
読了日
2011年2月1日
本棚登録日
2011年1月22日
2
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