ドーン (100周年書き下ろし)

著者 :
  • 講談社 (2009年7月10日発売)
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感想 : 124
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時期大統領戦を巡って、火星探査という歴史的偉業に隠されたある秘密がとんでもない爆弾になる…というお話。
個人的には、民主党の選挙PR担当のウォーレンがとても重要なポジションだったなぁと思う。この人がいるおかげですごく映画的に場面が想像できた。それぞれに散らばった事象がひとつの事実に結びついて行く過程がわくわくする。
リリアン・レインを中心として徐々に明らかにされるアメリカの暗部。読み進めていくと明日人よりジムのほうがよほど魅力的に見えた。

重要なテーマとなっている「分人主義dividualism」
物体としての存在はひとつだけれど、対人関係ごとに自分は分人化dividualizeされる。個人とは分人の集合である。
今まで言葉として理解していなかっただけで、とうにこれを知っていたというような、むしろ今までこういう思想がなかったことが不思議になるほど、説明されてスッキリな考え。
今までの言葉でいうと、様々な顔を持っている、という感覚が近いだろう。

子どもの時分は、親の前での自分と、学校での自分、友だちごとに違う自分に、自分はなぜひとつきりの自分でどこでも渡り合っていけないのか、嘘つきなのではないかと悩んだりしたもの。

どんな人にも、様々な顔がある。
向き合う人の数だけ分人が出来上がる。そうして出来上がった分人同士が自分の中で複雑に統合されて行く。
無意識に自然に行っていた個人individualを作り上げていく作業を、改めて点検し直す時に分人主義という考えはとても有効だと思う。

しかし<散影>システムはエデンシステムみたいで、ほんとにそのうち世の中こういう風になりそうだよなーて思った。顔という固有性にも意味がなくなっていく未来なら、より分人という考えは自分を定義するのに必要な考えになるのかもしれない。

こういうこというとオタク臭くて嫌なんだけど、なんとなく攻殻とかエデンぽいから脳内変換余裕で楽しめました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2012年7月16日
読了日 : 2012年7月15日
本棚登録日 : 2012年7月16日

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