主人公直達の父と引越し先の住人榊さんの母は昔駆け落ちしていた。
結局直達の父は家族の元へ戻り、榊さんの母は帰ってこなかった…
直達と榊さんの気持ち、超分かる。
お盆のふちで済ませた榊さんマジ優しいと思っちまったもん。
もうどうにもならないことを、進行形で見つめるのも、後になってから知るのもどっちもしんどい。
作品全体をコントロールする安定した温度。凍りつきも、沸騰もしないような。とても酷いことなど起こりそうもないような。
彼らの身に起こったことは、そんなのほほんとしたことじゃないのに。だからこそ、こんな安定した温度の場所でしか語れないことは、ある。これはそういう事柄。
そんな中でのちょっとした台詞の端々に「ぬるくない」ものを感じてまた身悶えるわけです。
「善良な市民面して…」 とか最後の引きの「捨てられる…」のとことか!
わかるわ。超わかる。
榊さんの「怒ってもどうしょもないことばっかりじゃないの」もよくわかる。
そういう諦念にまで至るのにどれくらいかかったんだろう、母が自分の元から居なくなってからの長い年月をどうやって生きてきたんだろうって、思いを馳せたらしばらく先に進めなくてぐるぐる考え込んでしまった。
解消されない「なんで?」をずっと抱えて生きていく。
一番信頼を寄せたい人に裏切られる。
自分のせいじゃないのに。
現実には、多分親の不貞を知った子どもって気づかないふりして胸にしまって生きてく人がほとんどなんじゃないですかね。
親は気づいてないと思ってて。
気づかないわけないんだなぁ。
榊さんの場合はもっと最悪ですけど。
だからうっかり知ってしまったことは直達にとって不幸かもしれないけど、それを誰かと共有できるってことはすごく良いことなんだろうと思う。それについて、言葉に出来ること。思いを打ち明けられること。傷を明るみに出すこと。
そしてその場にその件には全く関係ない人達がいるっていうのが、すごい重要で救いですよね。教授はやや性急に突っ込み過ぎな気がするけど、泉谷兄妹は距離感ばっちりだし、ニゲミチ先生はそこに居てくれるだけでいいし。猫もいるし。
複雑な心境にならざるを得ないふたり。
直達の真っ直ぐさが榊さんを雨の降ってない場所まで連れて行ってくれますように。
そんな風に願っちゃう。
私的なお気持ちが十二分に乗っかった感想でした。
現実で救われなかった気持ちが、虚構で救われることってたくさんあるよねぇ。
- 感想投稿日 : 2019年5月15日
- 読了日 : 2019年5月15日
- 本棚登録日 : 2019年5月13日
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