ツナグ (新潮文庫)

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著者 :
maverick066さん  未設定  いま読んでる 

新刊(続編)が出ると聞いて慌てて読んでみる。

対象喪失と対象関係の再配置の物語だった。

「生まれついての死刑囚」である人間にとって死は誰にでも平等に訪れる。

大切な人である対象にも例外なく、平等に。

しかし、死は時として前触れなく、行くものも残る者も、どちらにも十分な準備ができていないうちにやってくる事もある。

その時に感じる対象喪失体験は残された者にとって深い体験となる事は多いし、当然でもある。

死の受容、或いはモーニングワーク。

否認、怒り、取引、抑うつ、そして受容。

対象喪失では概ねこの4段階を経る。いずれの段階に費やす時間とエネルギーは均一ではなく、場合によってはある段階に何年も何十年も留まり、或いは受容へ至る事ができない事も多い。

そして、喪失した対象が自己にとって重要であればあるほどに、時間とエネルギーが必要になる。

構成が素晴らしいのは喪失した対象が徐々に身近で、かつ激しくなっていく点。

「アイドルの心得」では他者。通りすがりでかつ、面識もほとんど無い、一方通行の好意を抱いた相手に対して。

「長男の心得」では、初老を迎えた父親、家督を継いだ男性にとっての母。

「親友の心得」は疾風怒濤の時期にある思春期女性にとっての親友。

「待ち人の心得」ではプロポーズを経た後これから生活を共にしようと待ち望んだ夫にとっての妻。

そして、「待ち人の心得」では。

徐々に愛着対象が身近に、記憶も鮮やかに、喪失体験も激しいものへと移ってゆく。

それでも死者にもう一度会うという体験を通じて、残された者は死を受け入れ、その体験を自己に取り込んでゆく。

取り入れられることは驚嘆や尊敬、安心感や自己肯定感など暖かいものだけでなく、罪悪感と言った激しいものも含まれる。

陰性の感情も陽性の感情も、混然一体となった感情ひとつひとつが激しい感情の集合体としてのコンプレックスは、ツナグによる体験によってそれぞれの関係性が星座のように繋がり、やがて残った自己が航海を続ける上で人生にとってのコンステレーションとなる。

使者と書いてツナグと読む。ツナグのは今生きている人の過去と現在と未来という、自己の同一性だったのかもしれない。

ここまですごい物語だったのに続編が出てしまう。

しかし、すぐに読み始める前に少しだけ時間を置きたくなるのはいまこの物語を読んだ体験を次にツナグための時間がほしいからかもしれない。

レビュー投稿日
2019年10月22日
本棚登録日
2019年10月21日
6
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