日本初の「嫌韓」女性首相が誕生し、反韓ヘイトがエスカレートした近未来のディストピアーーという設定だが、そこはまぎれもなく現在のリアルからほんのちょっとズレただけの世界だ。登場する在日コリアンの青年たちひとりひとりが異なるスタンスでさまざまな選択をして生きているさまに、自分とは違う集団をなんとなくひと塊にとらえることの愚かさ想像力の欠如を思い知る。後半、キムマヤさんの悲劇の詳細が明かされ(太一の計画もそうだが、重要な事実を明かすタイミングが巧み)、夢のアプリ(このあたりは近未来設定が効いている)でお兄さんが死んだマヤさんと対話する章がとにかく苦しくて苦しくて、以降、太一の計画の顛末まで、心臓が止まりそうになりながら読んだ。梨花のブログの文芸ワナビー的な痛さとか、希死念慮のある者がやっと死ねることになったもののそれが他人から殺される状況だった場合の心理とか、本筋以外にも興味深いディテールがもりだくさん。右翼の若者貴島くんの存在の悲しみも忘れられない。そのあたり、文藝2020冬号の特集「いま、日本文学は」でコメカさんが本書を的確に評していたので、引用します→「この作品は在日コリアンたちの抵抗運動の物語でありながら、ジェンダーや文化的自己実現等、さまざまな水位の問題を同時に取り扱っていて、しかもそれらのなかにある『割り切れなさ』への記述にこそ力点が置かれている」。テーマありきではなく、ただ重たいだけでもなく、小説として純粋に面白い、スリルに満ちているところがすごい。詩が祈りみたいに大切に使われているところも印象的。同じ文藝の記事でパンスさんが「90年代までの村上龍みたい」と評していたのもうなずける。とかなんとか、わかったような感想を書き連ねる資格が私にあるのか。
- 感想投稿日 : 2020年10月27日
- 読了日 : 2020年10月26日
- 本棚登録日 : 2020年10月26日
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