ブラック・チェンバー・ミュージック

著者 :
  • 毎日新聞出版 (2021年6月21日発売)
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本棚登録 : 283
感想 : 26
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#あべかずチャレンジから1年、新刊が出たので読みました。前作『オーガ(ニ)ズム』と同じ巻き込まれ型のお話なのだが、語りのリズムとかギャグのキレとかキャラ立ちが前作よりパワーアップしている?(なお、単に技が磨かれたのか、この辺の調整をあえてやっているのかは不明である)いずれにしても、二段組み500ページ弱の長さが気にならず、スルスル読めて最っ高に楽しかった!今回直前に著者と佐々木敦さんのトークイベントを一部(*ネタバレ出て来そうなところで止めて、読後にアーカイブで残りを見ました)配信で見て、読むヒントをいくつか与えられた状態で読んだ。なんの前情報もなしに突っ込むのも好きだけど、これはこれで良いな。以下、そのトークの内容ともからめつつ、備忘録。
*基本、グダグダ悩んだり理屈をこねまわしたりしている主人公が、読んでて不自然なくらいの衝動に駆られて行動する、それと同時に物語も大きく動くという瞬間がいくつかあって、これって不自然なようでいて実は意外にリアルなんじゃないかな。今まであんまり考えたことなかったけど、物語の動かし方というものに俄然興味出た。
*「紋切型を受け入れつつ反転させる(第一印象を裏切る連ドラ的パターン)」に「小説家としての政治性」を託している、というお話だったが、古本屋のリサとバイト、謎の追っ手の正体など、よくある、お医者さんと言われると男性だと思ってしまう心理テストの類みたいな単純な話じゃないよね?私はサブキャラではゆみちゃんが一番好きなんだけど、クレイジーなゆみちゃんが実は有能なとことかも、そのひとつなのかな。きっともっと深い意味がありそうだから、この問題はもうちょっと考えたい。
*「ラブが表面化する瞬間」、これも唐突なんだけど、確実に胸がきゅんきゅんして、やるな、あべかず、と思った。薄目で流していたSNSの感想などで最後の1ページに何かあるとは予想してたけど、それでもラストにはぶわっときたし。今までに読んだことがない感じの、でも紛れもなくsheerなラブストーリーだった。
*トークショーでは『IP』を連想したという読者の声が紹介されていたけれど、私はやっぱりスーツケースという小道具もあって、大好きな『ミステリアスセッティング』を想起したかな。考えてみたら、『ミステリアスセッティング』って、物語そのものがステレオタイプの反転だよね?
*「政治性」ということで言えば、先日たまたま3.11がテーマのアンソロジー『それでも三月は、また』をぱらぱら読み返して、「RIDE ON TIME」のマイペースさというか他とは一線を画した孤高さに感嘆したのだが、この距離感と切り込み方、歴史のとらえ方が、本作でも生きているのかな。
*最後の日本側の真相、脱力&半笑いしつつも、ネット社会をリアルに絡めた、あべかずにしか書けないみごとな種明かしだなと思った。この辺りは『ニッポニアニッポン』ともつながってる?
*映像化するなら横口健二役を誰にするか問題、なかなか難しいけど……加瀬亮とか?あと、字面が横山健に似てるせいもあり、ちょい若い頃の健さんも思い浮かべてしまったけど、横口健二のセリフって、『オーガ(ニ)ズム』の阿部和重もそうだけど、テンポとか間とかがすごく大事なはずだから、巧い役者さんじゃないとね(追記:森山未來はどうだろうか。いだてんの再放送観てて気がついた)あと、諏訪太朗さんには是非出演してほしいですね。古本屋のダニーデヴィートか佐伯先生とかで? なんでもかんでも黒沢監督の映画でイメージする癖があって申し訳ないが、『勝手にしやがれ』シリーズや哀川翔主演のVシネマっぽいスラップスティックな楽しさがあったし。とくにクライマックスの浅草篇は、思いがけず生まれ育った町の近所だったこともあってめちゃくちゃ楽しかった!ヘイト集団の処理の仕方も完璧。


以下、ネタバレ


*これはフィクション全般についてなのだが、話の一番いいとこで既存の楽曲出すのと、双子使うの、どっちが反則? 双子のほうなのでは?と私は思った(べつに責めてはいない)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年7月22日
読了日 : 2021年7月21日
本棚登録日 : 2021年7月21日

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