生殖医療の衝撃 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2016年8月18日発売)
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感想 : 19
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子供がほしい、というのは生物であるヒトにとってはごく当たり前の衝動である。
もちろん、考える生き物であるから、あえて子をなさないという選択肢がありうることは否定しないが、ここではその問題は取り上げない。

本書で扱うのは、子を持つための営み、精子と卵子が出会うことがコントロールされている現状だ。
著者はその現状を分析しながら、それが内包する問題点を取り上げている。

現代日本では生殖医療に伴う法改正は全く追いついていない。
「代理母」「3人の遺伝子を持つ子」「死後生殖」。
民放制定時には考えられなかったSF的世界が今、起きている。
第7章では法律とガイドラインについて。
「こどもを産んだ女性が母」とはどこにも書かれていない。
なぜならそれは当たり前すぎる当たり前だったからだ。
しかし今やそれは「当たり前」とは必ずしも言えない。
早急に整備しなければ、この福祉に著しい不利益があると思うのだが、民法はいつも後回し(これは私の「感覚」ではある)。
「正しい家族」ばかりを強調する人びとは一体いつの時代に生きているのか。

着床前診断についても筆者は述べているが、遺伝子だけが子供の全てではないのだ。
生まれる前に「正常」であっても、出産時に、生後すぐに、成長期に、障害を持つことはある。
遺伝子至上主義は、優生思想のようで私は一抹の恐ろしさを感じる。

それにしても、とふと思う。
子供が欲しい、と強く願い、時間も費用も多くかける人がいる一方で、「望まれなかった」子供たちはどうしたらいいのか。
堕胎の件数の多さ、養護施設で暮らす子供達。
生殖医療はどんどん発展するのに、根本的なところは旧態依然。
それは本書の内容とはずれてしまうが、そのことを私は考えずにはいられない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自然科学
感想投稿日 : 2017年3月11日
読了日 : 2016年11月15日
本棚登録日 : 2017年3月11日

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