外科室

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本棚登録 : 207
レビュー : 26
著者 :
ねこさんさん 日本文学   読み終わった 

小石川植物園に行ってみた。
門を入ればいきなり、憧憬を揺さぶるような登り坂。イメージと違う戸惑い。それは更新されて急激に再醸成される。眠りに落ちる恍惚に似ていた。
僕は、この小説が好きなのだ。

例えば女が男を罵る時、死んでくれないのかという脅迫の気配がある。

心はいつも、死に捉えられた自分という存在が何であるか、どのように在るべきかを追い求めている。大なり、小なり。
一方で、生死よりも重要な安息の存在、人に憧れ、日常のあらゆる景色の中に溶け込ませようともしている。
女の主体は、関係の中にあるのだと思う。男もまた、そういう女と共にある時は、関係の中に自我を融解できる。
主体を必要としないことの安息。それは恍惚と呼んでもいい。
ただし執着も影のように寄り添い、心を締め付ける。その切実さは時として美しくもある。想い出になった後に、だけど。

譫言によって秘密が露見してしまうことを口にしてまで恐れる臆病さ、それと同時に、麻酔も使わず胸を切り開かれる痛みがあるからこそ「あなただから」と言える恍惚への執着。

女は男と根本的に異なる身体、血流を含んだ切実なふくよかさ、柔らかな甘い匂い、そして冷酷なしなやかさを持っている。
その生々しい脅迫の気配に巻き込まれる、窒息の恐怖。

男は身体も心も、硬く不自由だ。鏡花を読む時、剛性は無力だと思う。いつもただ、逃げられないことに踠くためのものでしかないような気がする。

レビュー投稿日
2016年5月19日
読了日
2016年5月19日
本棚登録日
2016年5月19日
4
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