- ばにらさま (文春文庫)
- 山本文緒
- 文藝春秋 / 2023年10月11日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
作者の最後の単行本となった短編集。
読み終わって、彼女の小説に惹きつけられる自分を再認識した。
特に印象的だったのは、登場人物の関係性にあっと驚かされ、すぐに再読してしまった「わたしは大丈夫」と「菓子苑」。
どれも人生の痛々しさを突きつけられながら、それを肯定してもいいんだという気持ちになる。押し付けがましくないメッセージ、この加減がいい。
2025年1月26日
- 檜垣澤家の炎上 (新潮文庫)
- 永嶋恵美
- 新潮社 / 2024年7月29日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
明治半ば。
横濱で絹物輸出商として財を成した檜垣澤商店の創業者要吉の、いわゆる妾の子として生まれたかな子は、母の死後、檜垣澤家に引き取られた。
やがて要吉も亡くなり、本妻のスヱを筆頭に女ばかりとなった檜垣澤家は、しかしますます事業に成功し富を手に入れていく。
かな子は持ち前の利発さで、創業者の娘である自分にも相応の権利が与えられてしかるべきだと考え、幼い頃からスヱら檜垣澤家の女たちの攻略法を錬る。
かな子の原動力が、はっきりとした怨恨や嫉妬ではなく、純粋な富への執着や権力欲でもなく、それらが絡み合った複雑なものからきているところが面白い。
物語の中で殺人や放火といった物騒な事件はあるが、ミステリーとも言い切れないし、初めて読むタイプの話だった。
いよいよここからかな子の人生が始まる、というところで終わっているのに続編はないものか。
2025年1月16日
- 李王家の縁談 (文春文庫)
- 林真理子
- 文藝春秋 / 2024年12月4日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
宮中、宮廷、皇族、皇室のキーワードが大好きなので迷わず購入。
肥前佐賀の大大名鍋島家から梨本宮に嫁いだ伊都子。実家の豊かな財力とその美貌が世間の羨望を集め皇室にも近い伊都子は誇り高く、長女の方子の結婚相手として朝鮮王朝の皇太子に白羽の矢を立てる。
伊都子の、高貴な女性特有の無知と傲岸さをユーモラスと捉えられる人なら楽しめるだろう。
この時代の上流の女性たちを主人公とした小説を読み漁っている身としては、彼女たちが脇役としてちらちら出演しているのがうれしい。
方子側の視点で語られたこの結婚も読んでみたい。
2024年12月29日
- やさしい猫 (中公文庫)
- 中島京子
- 中央公論新社 / 2024年7月22日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
「やさしい猫」は、語り手のマヤに義父となるクマさんが話して聞かせてくれたスリランカの寓話だ。
のちにマヤの友達のナオキくんがそこに込められた意味を解いてみせる(ただしその真偽は明かされていない)。
最近、仕事の関係で、日本に住む外国人にはさまざまな在留資格があって、就ける仕事も細かく指定されていることを知ったのだが、本書はさらにそんな彼らを管理する入管の実態を教えてくれる。
もちろんこれはフィクションだが、たとえばノンフィクションを読むよりずっとリアリティを感じる。知らなかったことをまた一つ知れた。
重苦しくなりがちなところだが、思春期の女の子の視点で描かれていて、受入れやすい。
2024年12月22日
- 星々たち 新装版 (実業之日本社文庫)
- 桜木紫乃
- 実業之日本社 / 2024年10月4日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2024年12月8日
- ふぉん・しいほるとの娘 (上) (新潮文庫)
- 吉村昭
- 新潮社 / 1993年3月30日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
幕末の長崎にオランダ船に乗ってやってきたシーボルト。その名前と日本での活動については何となく知っていたが、日本人との間に娘をもうけ、その血が日本に受け継がれていたとは知らなかった。
異国に開かれた長崎でも人目を引く容姿のイネは、当時当たり前に考えられていた嫁して子を産み育てるという女の幸せを早々に捨て、勉学の道を志す。
タイトルからイネの一代記と思っていたら、それより圧倒的に幕末の騒乱を描いた部分の方がボリュームがあった。大小全ての事件、出来事を詰めんだような。
前半はシーボルトが主人公、後半は幕末事件簿。
それはそれで読み応えもあって、幕末が好きな人にはいいのかもしれないが、私はやはり女の一代記好きなので少し残念だった。
2024年11月29日
- ふぉん・しいほるとの娘 (下) (新潮文庫)
- 吉村昭
- 新潮社 / 1993年3月30日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
上巻に記載
2024年11月29日
- 無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記 (新潮文庫)
- 山本文緒
- 新潮社 / 2024年9月30日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
読み進めるごとに、読み終わったら作者が死んでしまうという思いにとらわれる(本当はもうすでに亡くなっているのだが)。怖くて1ページ1ページかみしめるように読んだ。
初めて作者の訃報を新聞で知ったときの衝撃を思い出す。
うつ病を患っていたと知っていたのでもしやと思ったが、膵臓がんとは。
巻末の作品リストを見たら、コバルト文庫だけでしか読めない作品を除けば、すべて読んでいた。それだけ私にとっては特別な作家だった。
読者の目に触れることを念頭に書かれた日記なので、どこまで本音が語られているかは分からないが、最期のときまで湿っぽさを出さないように気遣いながら書いて生きたんだなぁとそう思う。
そこここに、「らしい」フレーズが出てきてうれしいが、最後の1日の日記が、とてもつらい。
2024年10月10日
- 雪の花 (新潮文庫)
- 吉村昭
- 新潮社 / 1988年4月28日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
記録文学というジャンルに分類される作品を読んだのは初めてだったかもしれない。
淡々とした文章で出来事だけを客観的に綴っているのに、なぜかとても引き込まれた。
素材の切り取り方が秀逸だからか。
幕末の福井藩の町医、笠原良策は、当時の大多数の町医同様、漢方を何より信奉してきたが、偶然の出会いにより蘭方医を志す。
やがて天然痘を予防できるという種痘の接種普及に身を賭して取り組んでいくが、次から次へと困難が待ち受ける…。
感傷を一切排除したような語り口がその厳しい道のりをより際立たせる。
2024年9月26日
- ブルースRed (文春文庫)
- 桜木紫乃
- 文藝春秋 / 2024年8月6日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
「ブルース」で影山博人が亡くなり、娘の莉菜は博人の後継者として釧路の街を裏側から操っていた。
博人の落とし胤である武博が成長するに従い、各々の思惑が絡み合い、次第に様相を変えていく街。莉菜は最期は一体どこに行き着くのか…。
女のワルにはできないことはない、とは博人のことば。そのことばが呪いのように莉菜を突き動かしているようで切なくなる。
2024年9月21日
- 手のひらの京 (新潮文庫)
- 綿矢りさ
- 新潮社 / 2019年3月28日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
作者が京都出身とは知らなかった。
京都といっても京都市内とその他の府下エリアではまったく文化が違うので、その他府下エリアに住む身としては京女三姉妹(と、両親である根っからの京都人の夫婦)の京都の自己分析を面白く読んだ。
京都を舞台に、京都人気質を常に醸し出しながら繰り広げられる三姉妹の日常は、ほんの少しの起伏があるだけで、大きな事件が起きるわけでもない。ただ、それがなぜか読み手の関心をひどく惹きつける。
2024年8月31日
- ひきなみ (角川文庫)
- 千早茜
- KADOKAWA / 2024年7月25日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
両親の都合で瀬戸内海の島に住む祖父母の元へ預けられた葉。東京の空気を身にまとった小6の女の子は閉鎖的な島では異質な存在で、祖父母にさえもうまく馴染めない。同じく島の人間が遠巻きにする同級生の真以に惹かれた葉は、自然と行動を共にするようになる。
島での少女期と、長い空白を経て大人になって東京で再会する2人を描く。
求めてやまない自分の片割れのような存在と、そこに寄り添うことで得られる静かな安堵。
読んでいて常に感じる痛々しさがラストに向けて優しく解れていく。
2024年8月31日
阪神淡路大震災を境に大きな喪失感を抱えながら生きる人々が、南国のトンガで生きる力を取り戻す、連作短編集。
南の島=癒し、再生という使い古されたようなテーマにやや辟易したが、それぞれのストーリーに嫌味がないのが救い。
特に冒頭の「楽園」はこれだけで一作品になってもいいのでは、と思った。もう少し母親との関係などの背景を掘り下げた長編があってもいい。
2024年8月5日
- ひらいて (新潮文庫)
- 綿矢りさ
- 新潮社 / 2015年1月28日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2024年7月20日
- ユートピア (集英社文庫)
- 湊かなえ
- 集英社 / 2018年6月21日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2024年7月13日
- 小説8050 (新潮文庫)
- 林真理子
- 新潮社 / 2024年4月24日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2024年7月2日
- 凍原 (講談社文庫)
- 桜木紫乃
- 講談社 / 2024年5月15日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2024年6月20日
- 赤と青のガウン オックスフォード留学記 (PHP文庫)
- 彬子女王
- PHP研究所 / 2024年4月3日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
皇族の方が書かれた本というところに興味を惹かれて手に取った一冊。
一般人には窺い知ることができない皇族の方の日常や家庭の話がいろいろ記されていたらいいな、という程度だったのだが、そんな当初の興味の範囲を飛び出して、研究者としての研さんの日々が真摯に綴られていて僭越ながら感服した。
解説に書かれているように、読み手の心の中にぐんぐんと入り込んでいく嫌味のない記述で、とても素敵なエッセイになっている。
留学を終えて宮邸に到着したときや学位授与式のシーンはうるっときてしまった。
2024年6月9日
- 人でなしの櫻 (講談社文庫)
- 遠田潤子
- 講談社 / 2024年4月12日発売
- Amazon.co.jp / 本
- 購入する
2024年5月31日