異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養

  • 英治出版 (2015年8月22日発売)
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リーダーの本棚お茶の水女子大学学長 室伏きみ子氏 
多様な文化の相互理解に

2018/12/1付日本経済新聞 朝刊
  小さい頃から読書に親しんだ。
 父親が元文学青年で、仕事のかたわら詩も書く人でした。家には本があふれていました。
 美しい絵は、本を読む楽しみの一つです。幼稚園児のころから好きだったのが、初山滋さんです。詩集『こころのうた』は、初山さんが装画を担当しました。高村光太郎、三好達治、立原道造、八木重吉さんら、自分が大好きな詩人の詩が収められています。
 いわさきちひろさんの絵にも、心ひかれてきました。余白の使い方、線の美しさなどに、初山さんの影響を感じます。命あるものに向ける優しさと悲しみが絵にあふれていて、とても心が落ち着きます。『母のまなざし、父のまなざし』は、疲れて心が萎えそうになったときに、よく見ています。
 理系への関心も、早くから芽生えていたかもしれません。自分では覚えていないのですが、幼稚園のころ子ども向けのキュリー夫人のお話を読み、「キュリー夫人みたいになりたい」と母親に言っていたそうです。
 『キュリー夫人伝』は中学生のころ読みました。夫人の次女が書いた本で、マリーと夫のピエールの人となりがよく分かります。徒労に終わるかもしれない、それでも何度も実験を繰り返す。その姿に感動しました。発見した元素は医療に応用され、多くの人を助けます。「自分もいつか人の役に立つ研究を」と思うようになりました。
  研究者、教育者として歩むとともに、子育てもしてきた。
 研究の道に進んだのは、学校の先生の影響も大きかったと思います。小学校の理科の専科の先生は、教えるよりまず「どうなるか考えてごらん」という先生でした。自分の予想を伝えると校庭で遊ばせてくれます。そして次の授業で実験し、確かめました。これこそ本当の教育ではないでしょうか。同学年から5人が研究者になりました。
 中学からはお茶の水女子大附属に通い、ここでも先生方に恵まれました。大学院の博士課程で結婚し、長男が生まれてすぐに夫婦で米国に留学することになりました。米国では時間外に子どもを連れて行くと、研究室のみんながかわいがってくれ、助かりました。
 かつて自分で読み、子どもとも一緒に読んだ本の一つが『星の王子さま』です。読み返すたびに、発見があります。命のはかなさと、はかなさのなかにある美しさ。愛情と純粋さ……。目に見えないものこそ大事なのだと、ずいぶんと考えさせられました。
 『銀河鉄道の夜』も、繰り返し読んでいます。主人公の一人は、いじめっ子を助けるために自分の命を捨ててしまいます。あなたは人のために生きることに価値を見いだせるか。そう問いかけていると感じます。
  戦争のない社会、多様性を尊重する社会の大切さを感じている。
 『チボー家の人々』は、第1次世界大戦前後のフランスを舞台にした小説です。成績優秀で、医師として将来を嘱望される兄、一時は不良だったが、誰よりも平和を大切に思う弟……。懸命に生きた人たちが、愚かな戦争のなかで未来を奪われます。高校時代に読み、非常にショックを受けました。全13巻と長いですが、1冊にまとめた『チボー家のジャック』もあります。
 世界にいかに多様な考え方、文化があるかを知ったのが、小田実さんの『何でも見てやろう』でした。アメリカからヨーロッパ、アジアへとまわる貧乏旅行の記録です。くすくす笑ってしまうおもしろい本ですが、突きつけてくる課題は重いものがあります。
 『異文化理解力』は、最近、グローバル企業のトップだった方に薦められました。自分の価値観だけでものを言ったり判断したりすると、誤解やあつれきが生まれ、ビジネスもうまくいかなくなることが、よく分かります。
 世界にはさまざまな背景を持った人々がいます。互いに理解しあい、尊重しあう。そうして初めて、社会のなかで自分の夢が実現でき、人々の夢や平和のためにも力を尽くせるようになるのではないでしょうか。ミャンマーで医療貢献活動をしている医師が書いた『死にゆく子どもを救え』を読むと、世界にはまだまだ希望があると感じます。
(聞き手は編集委員 辻本浩子)

【私の読書遍歴】
《座右の書》
『星の王子さま』(サン=テグジュペリ著、内藤濯訳、岩波書店)
『チボー家の人々』(全13巻、ロジェ・マルタン・デュ・ガール著、山内義雄訳、白水社)

《その他愛読書など》
(1)『キュリー夫人伝』(エーヴ・キュリー著、川口篤ほか訳、白水社)
(2)『何でも見てやろう』(小田実著、講談社文庫ほか)
(3)『<詩集>こころのうた』(八木重吉ほか著、初山滋装画、童心社)
(4)『空海の風景』(司馬遼太郎著、中公文庫ほか)
(5)『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治著、岩波文庫ほか)
(6)『十代のきみたちへ―ぜひ読んでほしい憲法の本』(日野原重明著、冨山房インターナショナル)
(7)『死にゆく子どもを救え』(吉岡秀人著、同)
(8)『母のまなざし、父のまなざし』(ちひろ美術館編、講談社)
(9)『異文化理解力』(エリン・メイヤー著、田岡恵監訳、英治出版)
 むろふし・きみこ 1947年埼玉県生まれ。お茶の水女子大理学部卒、東京大院博士課程修了(医学博士)。お茶大教授などを経て2015年から現職。公職も多く務める。
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読書状況:読みたい 公開設定:公開
カテゴリ: Business
感想投稿日 : 2018年12月7日
本棚登録日 : 2018年12月7日

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