何とも言えない味わいの短編が収められている。

最初の短編はさまざまな人物の視点からある40代男性の独身生活と過去の結婚生活の失敗についてつらつらと書かれていてちょっと皮肉な内容で、その他、白鳥と夫を分け合って暮らし続けた女性の物語や、庭にオリーブの木を植えた男性の人生、遠い地方都市の選挙戦を応援する男性の人生など、単純に面白い、とか、切ない、とかという言葉では表現できない不思議で素敵な物語が集められていて、どの短編もそれほど長いものではないのに読み終えた後にちょっと遠いところに連れていかれて帰って来たような気分になる。

2023年1月29日

読書状況 読み終わった [2023年1月29日]

主人公は、十七歳の誕生日を目前に控えた女子高生で、実は現代を生きる吸血鬼。

この「現代の吸血鬼」というのはさまざまな媒体でよく描かれるけれど、十七歳の誕生日に「脱・吸血鬼化」をはかる儀式が行われる、という設定が独特で面白い。

むちゃくちゃなコメディで、愉快で、ちょっと切なく、また愉快。
楽しく読んだ。

2023年1月27日

読書状況 読み終わった [2023年1月27日]

植物学者の牧野富太郎を主人公に据えた物語だ。
家の近所の野山に行っては植物を観察する幼少期から晩年までをユーモラスに丁寧に描いている。

有名な人だし、名前と植物学者ということくらいは知っていたけれど、こういう人だったのか、と読んでいて驚く。

端的に言って、人間としてはちょっとダメ、というか、家族にいたら困るだろうなあ、と思う。

地方の素封家に生まれたせいか、金銭感覚がおかしいというか、高価な本を根こそぎ買い漁っては実家に無心し、金がなくなり借金していても上等な旅館に泊まったり上等な洋服を誂えたり、いやいや家族困るだろうダメだろうそれは、というようなことを何度もしでかす。

仕事も自分の気が向くことはものすごい根気と集中力でやるが気が乗らないとふいとどこかへ出かけてしまい、たとえば自分に金銭的に頼っている妻子のことをすっかり忘れてしまったりする。

我も自負心も強くて、普通なら鼻持ちならない嫌な奴にしかならなそうなエピソードばかりなのだけれど、どこか憎めない不思議な魅力があって、強烈な個性と生き方に圧倒されるように読んだ。

まだいろいろなものがルール化されていない、明治・大正・昭和の時代だからこそできた生きざまで、ただただ凄いというばかり。

2023年1月27日

読書状況 読み終わった [2023年1月27日]

神保町の古書店を経営していた兄が死に、店を整理すべきか残すべきか迷いながら、とりあえず店を受け継ぐことを決めて帯広から単身やってきた珊瑚と、母親から珊瑚の様子をそれとなく見守るように言いつけられたおお姪の美希喜のふたりの視点で、新米古書店員の日々を描いた連作短編集だ。

どの短編にも、実在する本と神保町のグルメが登場して、読んでいると猛烈に神保町に行ってカレーを食べたくなる。

2023年1月27日

読書状況 読み終わった [2023年1月27日]

京都・鞍馬に窯を構える人間国宝も間近といわれていた陶芸家が殺される。
なぜ彼は一人で山に入ったのか?
彼が遺した窯変天目の茶碗はなぜ発表もされずにいるのか?
陶芸家の弟子となっていた町子と、彼女の美大時代の先輩で変わり者の大学教員の馬酔木が謎を解き明かすミステリーだ。

陶芸の世界を舞台にした一風変わった仕立てなのだけれど、話の筋に若干無理があるような気がする。

2023年1月21日

読書状況 読み終わった [2023年1月21日]
カテゴリ 平板なかんじ

第二次世界大戦が起こる前、世界中がきな臭さを増す中で、上海で働いていたスミは上海事変に巻き込まれ、体に消えない傷を負う。

欧米各国や日本が乗り込み、いびつな形で統治される中国で憎みあい傷つけあう日本人と中国人の姿に胸を傷め、軍国主義・拡大主義へと突き進む世相をなんとか止めたいと、蒋介石との和平工作のために民間人もが立ち上がり、苦闘する様を重厚かつスリリングに描いた一冊だ。

史実をもとにしたフィクションだが、出てくる登場人物がリアルで、戦争間際や戦時中の日本や中国には本当にこんな人たちがいたんじゃないか、とかいう気持ちになる。
暴力が当たり前に横溢し、自分勝手な理論を振りかざして奪い奪われる世界。
一世紀近く前の時代を描いている物語なのに、最近の社会情勢を想起させられるところもあり、はっとさせられる。

重みのある一冊だった。

2023年1月21日

読書状況 読み終わった [2023年1月21日]

半電脳で人口心臓と美貌と怜悧な頭脳を持った現代の安楽椅子探偵「シャーリー・ホームズ」と彼女の同居人でアフガンに出向いていた経験もある女性医師「ジョー・ワトソン」の物語、第二弾だ。

登場人物の名前から即シャーロックホームズのパロディであることがわかる本作だが、内容はなんとも不思議。
やや近未来な香りのするロンドンを舞台に(今回はロンドンを離れた地方都市がメインの舞台だが)、コメディ仕立てでノリがライトノベル風な無茶苦茶な話が展開し、なんというかぽかんとした煙に巻かれたような気分になる。

2023年1月21日

読書状況 読み終わった [2023年1月21日]

高校時代にはマスコミにも注目される野球投手だったが肩を壊してからは引きこもりのような生活になり、まわりの友人たちが社会人となっていく中、実家暮らしで倉庫整理のアルバイトを意欲もなく続けている鉄舟は、母親の強い勧めにより野球同好会をなし崩しに作ることになる。

河川敷の市民グラウンドに集まったのは、何かしらの野球の挫折を抱えた寄せ集め集団で、バッティングもまともにできない人間もちらほら。見切り発車の泥舟ではじまった同好会と鉄舟の紆余曲折をコミカルに描いた一冊だ。

挫折したかつてのヒーローが再び立ち上がる物語、というとよくある内容だけれど、この鉄舟というのが現役時代は傲慢を絵に描いたようなイヤなヤツで、現在もふがいない割には自尊心の高いなんともしょうもない主人公なのがミソだな、と思う。

お決まりの展開ではあるけれど、楽しく読んだ。
バックサード、なんて言葉、自分も知らないよ。

2023年1月9日

読書状況 読み終わった [2023年1月9日]
カテゴリ 平板なかんじ

就職活動に悩んでいるなつきは、恋人と二人で楽しむはずだった北海道旅行の初日に失恋してしまう。
自棄になったなつきと、一風変わった親子が出会い、不思議な交流を深める一冊だ。
さらさらとテンポよく、するすると読めた。

2023年1月7日

読書状況 読み終わった [2023年1月7日]
カテゴリ 平板なかんじ

祖父は軍医、父親は農林大臣という富裕な家に生まれた著者が、応召された後、敗戦後の焼け野原の東京で外国人にものを売ることから始め、やがて一流の古美術商となった人生について語った自伝的一冊である。

もともとは骨董の雑誌「目の眼」に連載されていた原稿を、著者の亡き後に娘が現代でも読みやすいように苦心して本の形に整えたものらしい。

高い評価をつけたけれど、自分以外の人間が読んで面白いと思うかはわからない。が、古美術、骨董、数寄者などに興味のある人間にとっては非常に惹かれる内容なのではないかと思う。

鈍翁や耳庵といった近代数寄者の名だたる人物や、柳宗悦や濱田庄司といった民藝運動の牽引者、藤田嗣治など美術家がさらりと「生きた人物」として出てきて、またそのやり取りがどこか人間臭く生き生きとして面白い。

美術品をただ売った買ったという話だけでなく、大学の遺跡発掘に立ち会ったり、本物を見ようとした苦労や顛末が楽しく語られていて、すごい人生だなとしみじみ驚く。

著者の石黒氏がお坊ちゃまなんだろうけれどどこか茶目っ気があって愉快な人物で、古美術などと関係ない戦時中に倉庫を建てて物品を管理した時の話なども読んでいて単純に興味深かった。こんな時代だったんだな、と思わされる。

あとがきで、本作を出版までこぎつけた娘さんが「戦後の日本を生きた記録」と書いているのだけれど、まさにその通りで、大正時代に生まれた負けん気が強くどこか変わった男性が自分の心に素直に昭和から平成を生きた姿が書かれていて、なんとも味わい深い一冊だった。

2022年12月31日

読書状況 読み終わった [2022年12月31日]

山内に住まう八咫烏シリーズ、最新作。
本作ではわき役の長束と彼に仕える路近というキャラクターにフォーカスをあてた内容になっていて、語られるのは主に路近の若い頃の昔話なのでスピンオフ的な扱いなのかな、と読んでいたら、最後の最後に本編の筋にぐっと引き戻された。
なるほど、この後の話の展開の説得力や厚みを出すために一見回り道に思えるこのエピソードが差しはさまれたのだな、と思う。

太陽が墜ちたら終わりではないかという印象を前作や前々作で感じていたけれど、このあとの話がぐっと盛り上がりそうな予感がする。

2022年12月28日

読書状況 読み終わった [2022年12月28日]

豊富な図版で、古代から近代までのヨーロッパの文様について(一部、日本との比較もある)解説された一冊だ。
キリスト教、イスラム教といった宗教由来の文様、タペストリー、都市のシンボル、そういったものがどういった歴史や意味を持つのか、が語られていて興味深い。
自然は制するものであるというヨーロッパの価値観や、ミクロコスモスとマクロコスモスという考え方など、読んでいてふむふむと面白い。
異論異説はあるかもしれないが、全体を通してざっとヨーロッパの装飾文様の概要を俯瞰できるちょうどよい内容だった。

2022年12月28日

読書状況 読み終わった [2022年12月28日]

何かが違う、という思いから大手化粧品会社を辞めて無職になった美月は、母親の古くからの友人である市子の家に転がり込む。
落ち着いてから職探しをするつもりでいたが、コロナウィルスの感染が拡大し、行動制限が続く想定外の事態となる。
市子をはじめとする個性的な中高年たちとの交流を通して働くとは何か、人生とは何か、という難問をコミカルに素直に描いている。

突飛なキャラクターが当然のように顔を出す展開や、美月と市子の関係などが深い説明もなく描かれているのを読んでいて、あれ、これって前作があってその続編だっけ、と首をかしげながら読んでいたら、巻末に「虹色天気雨」と「ビターシュガー」がこの前日譚にあたる、と紹介されていて、ああそうか、と腑に落ちた。

細かいところはもう覚えていないけれど、そういえば読んだな、と気づく。
まだ若かった市子、幼かった美月が大人になってこの物語に繋がるのか、と思うとなんとも感慨深い。

2022年12月25日

読書状況 読み終わった [2022年12月25日]
カテゴリ 平板なかんじ

白洲正子と小林秀雄を祖父母に持つという骨董のサラブレッドのような血筋の著者が、自身の好みを反映させながら「骨董とはなにか」を豊富な写真と一緒に語った一冊になっている。

もともとはクレジットカードの会員向け雑誌に掲載されていた読み物をまとめたもののようだが、判型の大きな一冊にあえて仕立てられていて、眺めていて楽しい。
美術館に所蔵されている品々を収録した図録とはまた異なった美しさや面白みがある。

多くの人が口にする「無作為の美」を白洲氏も熱く語っていて、作為というものがやたらに嫌われる世界だな、としみじみ思った。

2022年12月25日

読書状況 読み終わった [2022年12月25日]

裏千家茶道の機関誌であり、茶の湯の雑誌でもある「淡交」に掲載されていた短編小説を集めた一冊だ。

掲載誌の特色から、タイトルの通り茶の湯にまつわる話が描かれていて、タイトルの宗旦狐とは、千家の祖ともいわれる千宗旦に化けることで有名だった狐を扱った話だし、茶碗に固執する武士の異様な執着や、仕覆をいかに美しく縫うかといった話など、茶の湯に興味がなければピンと来ないような短編ばかりが集められている。

2022年12月22日

読書状況 読み終わった [2022年12月22日]
カテゴリ 平板なかんじ

別冊太陽の『101人の古美術』で取り上げられており、興味を持って手に取った昭和のエッセイだ。

日本の仏文学者で古美術を愛した男性が、乾山の皿や光琳の肖像画といったものを何気ない店先から「掘り出し」た顛末や、美を愛する気持ちなどが語られている。

文中にさらりと友人として井伏鱒二の名前が出てきて、ああ、そんな前の時代の人なのか、とはっとするくらい、古さを感じさせない。

もちろん、現代には著者が旅したような日本の山村はもう残っていないし、戦争に関する話も出てくるのだけれど、戦前戦後の半世紀以上昔のことだ、と思わせない瑞々しさがあって、令和の今の時代に読んでいても十分に楽しかった。

2022年12月18日

読書状況 読み終わった [2022年12月18日]

戦国時代の終わりから江戸時代のはじめにかけて、石見銀山を舞台にした女の物語だ。

赤ん坊のころから不思議と夜目がきいた少女、ウメ。
幼い頃に両親とはぐれ、山師の男に拾われる。

山を縦横に走る銀の鉱脈、間歩に潜り続ける男たちと男の情欲を受け止める女たち。
業と悲しみと愛憎と、さまざまなものが熱く冷たく凝ったような物語で、圧倒される。

2022年12月17日

読書状況 読み終わった [2022年12月17日]

横浜にある世界中の民芸品を扱ってきたギャラリーショップが、これまでに収集してきた品々を素敵な写真と文章で紹介している一冊だ。
冒頭に、骨董的な価値はない、といったことが書かれているけれど、数十年の月日を経た民芸品はちょっとした骨董品の顔をしているものもあって、ぱらぱらとページをめくっているだけでも楽しい。

2022年12月14日

読書状況 読み終わった [2022年12月14日]

明治の富豪の近代数寄者から明治大正昭和に活躍した文筆家や建築家から白洲正子まで、さまざまな骨董好きの「愛した一品」を写真と文章で紹介した一冊だ。
登場するのが101名もいるので、ひとりあたりのページは1~2ページ、紹介される品も1点から数点のみ。
古美術評論家の青柳恵介氏自身が冒頭で述べている通り、「このひとの一品はこれ」と選定する目も含めて面白い内容になっている。
登場する品はいまは美術館に所蔵されているものも多く、昭和の初期頃までは個人がこういった品物を所持して楽しんでいた時代だったんだなあ、としみじみする。(もちろん今も楽しんでいる数寄者もいるだろうけれど)
こんな人まで、という人もいれば、初めて聞く人も101名の中にはいて、また好んだ品も書から古陶からさまざまで、古美術の奥深さを感じる。

2022年12月5日

読書状況 読み終わった [2022年12月5日]

豊富な写真を交えて世界中のキルト、を紹介している一冊だ。
キルトというと、ハワイアンキルトとか、欧米の婦人が作るベッドカバーとかを思い浮かべがちだけれど、そういった手芸としてのキルトだけでなく、様々な布をはぎ合わせて作る民族衣装など幅広い範囲の布を扱っていて、興味深い。
針と糸と人の持つ力の凄さを感じる。

2022年12月5日

読書状況 読み終わった [2022年12月5日]

縄文時代の人々がどのような住居に住んでいたか、という考察から始まり、屋根に草花を植える芝棟の話、柱、床、窓といった建物を構成する要素ひとつひとつの話、を、藤森氏らしい闊達かつ軽妙な論調で短いエッセイ形式にまとめている一冊。
自分で作った石斧で樹木を伐ろうとした、といったエピソードも出てきて、この方って昔っからこういう実践派だったんだなあ、としみじみする。
楽しく読んだ。

2022年12月4日

読書状況 読み終わった [2022年12月4日]

侘茶に始まる茶室から、近代建築家が手掛けた茶室、果ては自身が設計した茶室まで、茶室の歴史を独自の視点と大胆な考えで紐解いた一冊。
最後に、磯崎新氏との対談が収録されていてそのあたりは建築専門外の人間にはやや難解な部分もあったけれど、総じて専門外の自分でもわかりやすい内容だった。

2022年11月26日

読書状況 読み終わった [2022年11月26日]

様々な媒体で発表されてきた短編・掌編を集めている。既読のものも多かったが、読んでいて、これ柚月さんの作品だったのか、と改めて驚くものもあった。
ミステリー調のものが多いが、ナンセンスの極みといったものもあり、バラエティに富んでいる。

2022年11月25日

読書状況 読み終わった [2022年11月25日]
カテゴリ 平板なかんじ

江戸の袋物屋三島屋「黒白の間」で、語り捨て・聞き捨ての怪異の話を集める変わり百物語シリーズ、八作目にあたる。
今回、小旦那の富次郎が聞くのは、神様が賭博する異界と虻の呪いのお話、絶対に結婚しない神聖な川の渡し守のお話、そして池の先にある「ひとでなし」が出現する不思議な土地のお話だ。

どの物語もぞっとするような面を持ちながらも、ほろっと笑ったり泣いたりするようなエピソードが折り挟まれていて、読み終えた後にほうっと息をつきたくなる。

燕の神様の愛らしさ、人間の身勝手と強欲さ、少年の義侠心。勇ましい村人たちの人を救おうとする心、武士の魂の高潔さ。
美しいものや尊いものだけでなく、あさましいものや情けないものも描かれているから面白く、味わい深い。

「よって件のごとし」のタイトルの意味が分かった時、この言葉をタイトルに据える宮部さんのセンスに、参ったな、という気持ちになった。

語られる怪異のお話の部分に引き込まれるけれど、合間合間に挟まれる富次郎やおちかの人生も少しずつ変化していて、物語が確実に進んでいることを感じる。
この先どうなるのだろうと、次作が楽しみだ。

2022年11月23日

読書状況 読み終わった [2022年11月23日]
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