第58回角川短歌賞を史上最高得票で受賞した著者の第一歌集だそうです。
タイトルの『海蛇と珊瑚』というのは
○絶望があかるさを産み落とすまでわれ海蛇となり珊瑚咬む
からとったものだと思います。
この人は怒っている。
激情しているのかと思った歌もありました。
恐い真実に気が付いている人だとも、意地悪な人だとも思いました。
ちょっと面白い人だと思う歌もありました。
著者あとがきで雑然と種々のジャンルの連作が並ぶ結果となったとおっしゃっています。
解説の永田和宏さんが白眉だとおっしゃっている歌は
○傘をさす一瞬ひとはうつむいて雪にあかるき街へ出でゆく
で、無意味の持つ意味を深く自覚しているとおっしゃっています。
私も、意味はわからなかったけれど(ないのかもしれません)いいと思った比較的穏やかな歌を以下に挙げます。
○うつくしく傘を折りたたむひととして雨のさくらの樹の下にゐる
○ひとりきりなんだよ空はうつむいて歩いてゐるよそれぐらゐ分かる
○電車から駅へとわたる一瞬にうすきひかりとして雨は降る
○営みのあひまあひまに咲くことの美しかりき夕ぐれは花
○咲き終はるまでを誰にもみられれずにゐたんだね花。それが愛しい
○春の雨、庭をわたしを過ぎながらなんてきれいな足あとだろう
○あなたの落としたのは雨の林ですか ほんたうの愛なんてないしそれでいい
○誰も知らない世界のなかで咲いて死ぬきれいな花は空とひとしい
○夕焼けはずどんと暮れてわが手もと刃にて檸檬ゆ檸檬を剝ぎぬ
○するどかったね、一日一日が。そしてそのなかにまつすぐ降る春の陽が
○何にいのればやさしきいのち桜花まだぎこちなく咲きしまりつつ
○いつか死ぬ僕が野菜に咲いた花をなでてゐる雨よりも静かに
- 感想投稿日 : 2022年5月28日
- 読了日 : 2022年5月28日
- 本棚登録日 : 2022年3月30日
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