アガンベンの処女作。私が最初に読んだアガンベンが「ホモ・サケル」だったんで、アガンベンは政治哲学の人っていうイメージがついてたけどプロフィール見たら美術の人なんだよな。
「中身のない人間」は芸術についての論文集。
ニーチェ、ヘーゲル、ヘルダーリン、あとバルザックとかカフカの小説や日記からの引用、カントの「アプリオリな美的判断はその根拠に関する限りいかにして可能か?」というあの有名な問いの検証などを踏まえて、ニーチェの永劫回帰や芸術の根拠に迫る書。
ヘーゲルの精神現象学からの引用が多くて大変だった。
でもヘーゲルの引用と「脅威の部屋」の相互作用がなければ「同一人格が主語でも述語でもある同一判断における同一性」という概念は理解できなかっただろう。「脅威の部屋」で書かれている収集家の価値の剥奪的なこともこの引用のおかげですっきりと理解できた。
とても興味深かったのは、ギリシア人が昔職人も芸術家も合わせて「技術家」とくくっていたこと。
労働の価値を軽視していたのではなくむしろ労働の価値をしっかりとわかっていたのではないかと。
その後産業革命やらがあって再生産可能であることこそが価値であるものと高度に芸術的であること技術が高いことこそが価値であるものとに別れて行き、やがてそれはレディ・メイドとポップ・アートにそれぞれ行き着いたという考察。ただ、そこに本来的な意味での中身は何もない。
とにかく広範な考察力なので、美術哲学思想好きは是非。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
哲学/思想
- 感想投稿日 : 2012年9月6日
- 読了日 : 2012年9月6日
- 本棚登録日 : 2012年9月6日
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