屍者の帝国

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本棚登録 : 3053
レビュー : 426
min2flyさん 小説・文学   読み終わった 

2012 9/8読了。頼んで買ってきてもらった。
伊藤計劃の遺稿(プロローグ)といくつか残したというアイディアをもとに円城塔が書き上げた、待望の小説。
開く前の期待感、そして何度読んでもワクワク感が異常に高まるプロローグ。微かな不安を覚えながら第1部を読み始めた時の安心感。
結末に至るまで、期待通りの本だった。

まずは既に公開されていた伊藤計劃のプロローグが、本当、何度読んでもワクワクする。
動物磁気説が正しかったとされていて、フランケンシュタインの怪物で実現された死者復活が、意思のない死体を労働力として駆動させる技術として一般化された19世紀の世界。
ロンドン大学医学部に通う若き日のワトソンは、同大を訪れたヴァン・ヘルシング教授と彼に連れられて行った先で出会った"M"に依頼され、アフガニスタン方面でスパイとして活動することになる・・・。

この時点で、

 ・現実の史実では否定された学説(動物磁気説や骨相学)がこの世界では採用されている(場合がある)
 ・他のフィクション作品(フランケンシュタインの怪物、シャーロック・ホームズ、ドラキュラ、007)内での史実がこの世界でも取り入れられている場合がある

ということがわかり、ていうかフランケンシュタイン化技術が普及している世界でワトソンが大英帝国のスパイマスターとしてアフガン潜入とかなにそれ超面白そう、っていう雰囲気がとんでもない。


この面白さの雰囲気を、円城塔は畳んでいく方向じゃなく、まずはどんどん広げていく。
『カラマーゾフの兄弟』や『風と共に去りぬ』からもキャラクターを取り入れる。
チャールズ・バベッジの解析機関が普及し、大規模計算が行われ、それらのネットワーク化も既に行われていることにする。
過去にすべての言語を包摂する大語族があったはずだとか、聖書に従えばいずれ死者はよみがえる⇒死者を実際によみがえらせることこそその証になるとか、原初の1人であるアダムを屍者化するとか。ぱっと聞けばトンデモとしか思えない説にしたがって行動する人々が現れる。
さらにもともと、伊藤計劃が世界中をわたる話にしたかった、それも日本にも赴く話にしたいと言っていた、ということを受けて、インド、アフガン、日本、アメリカ、そして再びイギリスへと至るグローバルな話にも仕立てる。
シャーロック・ホームズ、ヴァン・ヘルシング、カラマーゾフの兄弟、明治維新、米南北戦争と風と共に去りぬ、が、同時期の出来事であることは、世界史上でなんとなく知識としてわかっていても、物語の中でそれをこんなふうにつなげて提示される経験はあまりなく、やはり期待がどんどん高まることに。
明治天皇とグラント元大統領の会談中に屍者の軍団が攻めてきてさらにレット・バトラーが狙撃を!・・・って。・・・って!!
(きっとまだ元ネタわかっていないキャラや設定もありそうなのでそれはこれから探したい)

こういう言い方はなんだが、「熱い」要素を伊藤計劃はプロローグにもともといっぱい詰め込んでいて、その詰め込み方の方針にしたがって円城塔もめいっぱい詰め込み続けた感がある。
そりゃワクワクするに決まっているだろっていう。

もともと「言葉」に執着する2人だけあって伊藤計劃と円城塔の相性もいいのか、もちろん完全な円城文体なんだけどそれほどの違和感なく読み進めることもできた。
バーナビー大尉が適度にギャグ要員にもなってくれて、肩肘はってばかりにならず読めるのも嬉しい(というかバーナビーに対するワトソンの態度がギャグになっているんだが)。

これだけ色々突っ込んだ話で、なんでこの人物の名前が出てこない・・・と気になっていた人物についてもあっと驚く形で名前が出てきて納得できたし、屍者化とは結局なんなのか、その解釈の提示も幾度か変わり、最後に出された説は円城塔ならそういうよねっていう感じにもなっている。

ラストバトル、エピローグに至るまで、伊藤計劃×円城塔にかける期待を裏切らない満足度だった。
欲を言えば期待を超える何かがあるんじゃないかと思ってた、っていうところだけれど(それは期待と何が違うのか)・・・それについては自分が後半、急いで読みすぎた可能性もあるので、あるいは気づいていない要素がありそうな気もするので、引き続き考えたい。

レビュー投稿日
2012年9月8日
読了日
2012年9月8日
本棚登録日
2012年9月8日
3
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