どこからとは特定されていない国から難民としてドイツに逃げてきたマディーナの一家。今は難民認定が降りるかどうかを待ちながら劣悪な収容所で暮らしている。叔母も含めた一家5人でひと部屋を分け合う生活は、狭苦しくて気が変になりそうなほどだけれど、少なくとも生命の危険はない。
マディーナは高校に通ってドイツ語をおぼえ、両親のための通訳までつとめるようになったが、大人は収容所から出ることもできず、ただ停滞したまま無為に生きるしかない。そんななかで父親は、故国の女性蔑視、家父長制の価値観をそのまま持ちつづけ、日々、新たな世界に適応していく娘との距離が広がっていく。
価値観が更新されない親と、新世界に生きる人々との「あいだのわたし」。そんなマディーナの毎日は不条理の連続。それでも学校の先生や福祉の先生のように親身になってくれる大人がいるのは救われる。また、マディーナから見れば何不自由なく見える親友のラウラも、かつて父の家庭内暴力におびやかされ、心に傷を負っていることが描かれる。人が平和に、幸せに暮らすことはなんと難しいのか。そんななかでも、自分たちの明日を少しでもよくするために、前を見すえて前進するマディーナの姿がりりしい。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
YA
- 感想投稿日 : 2025年6月11日
- 読了日 : 2025年6月11日
- 本棚登録日 : 2025年6月11日
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