
「行きたくない」がテーマのアンソロジー。
いやあ。
行きたくない、分かる分かる。
住野よると奥田亜希子が目に入って購入したけど、星四つか五つか迷うくらい、どれも印象に残るお話だった。
以下、ネタバレ含む注意。
「ポケット/加藤シゲアキ」
友達が不登校になって、周りからは浮いた存在になってしまう。
そんな彼に、優しく声をかける俺、という優越感が形になる後半が面白い。
実は自分には出来ないこと、知らない世界を開いていた友達に、自分自身の狭量さを感じさせられる主人公。その描写に、青春を感じる。
「ピンポンツリースポンジ/渡辺優」
ロボットが「したくない」と言うのはオカシイ、という着眼点がいい(笑)
Siriに拒否されたら、困るだろうな。
検索したくありません。
でも、そこでそんなロボットに愛嬌があると感じるか、不快に感じるかで、この物語は分岐するように思う。
「シャイセ/小島陽太郎」
明らかに拒食症と思しき店員シャイセと、仲良くなれないかと眺めているわかばさん。
とあるキッカケから、二人は一緒に食事をするようになるのだけど、うどんをちょっとずつちょっとずつ咀嚼するシャイセが、可愛い。
歪んだ生活の中にいる二人が、それでもか細い繋がりを得て満足するので、なんか、最後ホッとする。
「終末のアクアリウム/奥田亜希子」
停滞から抜け出すことの、グッという覚悟とか、痛みって、ちょっと分かる。
この生温さが、ずっと続くわけではないと分かっていても、動きたくない。
ゆるゆると終わりなく続く夫婦生活を、楽しんでいたはずの彼女。
子供が欲しい、とスイッチを押した彼と、そのスイッチを押されたことで、ああ、この時がついにやって来てしまったと、動きを開始する彼女から放たれるノイズが、やっぱり、分かる。
「コンピレーション/住野よる」
仕事から帰ると友達がご飯を作って待っている。
けれど、どうやらその友達とは初対面で。
ゲームして、映画見て、悩みを打ち明けて、眠る。
そして翌日、また違う初めての友達が待っている。
そんなミステリーな始まりが、どんな結末を迎えるんだ、とドキドキしながら読んでいた。
知らなくても、知ってくれている人がいる状況って、受け入れられるものなのか。
でも、人付き合いが苦手だからこそ、付き合いが限定的に、しかも円満な形で始まっては終わってゆく、この小説みたいなカタチって、楽でいいかもしれない(ご飯までついてくる)と思ってしまった。
- レビュー投稿日
- 2019年9月7日
- 読了日
- 2019年9月7日
- 本棚登録日
- 2019年9月7日
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