梅雨時に似合う、短編集。
実在の人物をモデルに描いたフィクションとな。
と言っても、私が名前を知っているのはグレン・グールドと牧野富太郎だけでしたが……。
伝記よりも、断片的で、だからこそ色合いが濃い。
小川洋子がひそひそと切り取って創り上げたコラージュ作品みたいで、楽しかった。
何を置いても、冒頭話の「誘拐の女王」に持っていかれてしまった。
突如、出現した不思議な姉。
彼女が愛おしそうに抱える裁縫箱には何が入っているのか、気になる妹。
そこから生まれ出づるは、秘密の誘拐譚。
物語を語る姉は夜な夜な、何者かに許しを請い自罰するのだった……。
見てはいけないものを見ている感。
谷崎潤一郎の『マゾヒズム小説集』を思い出した。
盲目の祖父と孫の歩みが織り成す「測量」も、“放置手紙調査法”なる心理学実験をモチーフにした「臨時実験補助員」も、良かった。
(放置手紙調査法も初めて知ったけど、ロマンすぎる。つい、探してしまうじゃないか。)
阿吽の呼吸というけれど、あ、この人とならずっといられる、という空気感って何なんだろう。
一緒に仕事をしていたい人って、いませんか。
そういう居心地良さを、ギュッと数値化するとシンクロニシティのようなものになるのかもしれない。
祖父の歩数をバイタルサインとして、話は進んでゆくのだけど、その乱れに酷くショックを受ける孫に切なくなった。
沈んだままの終わりを迎える話も多いので、しとしとと雨降る夜に読むのがおすすめです。
- 感想投稿日 : 2019年6月23日
- 読了日 : 2019年6月23日
- 本棚登録日 : 2019年6月23日
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